『黒牢城』あらすじと感想 黒田官兵衛はオデュッセウスでレクター博士!?

ミステリー

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2021年6月に出版された米澤穂信の『黒牢城』(KADOKAWA ¥1760)。

読み方は「こくろうじょう」

タイトルには『Arioka citadel case』と英語の訳がついています。

ちょろ
ちょろ

citadelは「城・とりで」という意味だから直訳すると「有岡城事件」。

もず
もず

Wikipediaでは「伊丹城」で記載があるね。荒木村重が改修・改称したお城。伊丹氏から奪ってのちに「有岡城」にしたんですね。

2022年 第166回直木賞を獲得しました。

アニメ化された古典部シリーズ、コミック化された小市民シリーズなど現代を生きる青少年たちをリアルに描くことで定評のある米澤穂信。

『黒牢城』は一転して舞台は戦国時代。

織田信長を裏切った荒木村重に捕らえられ、牢に入れられた黒田官兵衛。

知恵と謀略に長けた官兵衛に一目置いていた荒木村重は、不可解な事態に遭遇すると地下牢に降りていき、謎かけをします―。

『黒牢城』のあらすじ

『黒牢城』の構成は以下の通りです。

序章 因

第一章 雪夜灯篭

第二章 花影手柄

第三章 遠雷念仏

第四章 落日孤影

終章 果

 時は天正6年。

織田信長に謀反を起こす気配のある荒木村重の元に黒田官兵衛が軍使として訪れます。

今までに何人もの使いに翻意を促されてきた村重。

黒田官兵衛の来訪に初めは頓着していませんでした。

ですが、黒田官兵衛の「この戦、勝てませぬぞ」の一言で事態は一変。

官兵衛は囚われの身となります。

ちょろ
ちょろ

古今東西、悪い知らせを持ってきた使者はひどい目にあわされるもの。

その後、たびたび城内で起こる難事件。

村重は行き詰ると官兵衛のいる土牢に降りていき、謎を解くように求めます。

参謀として名高い黒田官兵衛。

日が差さない地下牢に居ながらにして瞬時に謎の本質を見抜くのですが―。

 大河ドラマの影響もあってか、黒田官兵衛の知略に対する評価がうなぎ上り。

まるでギリシア神話の英雄 オデュッセウスなみの知将として描かれています。

もず
もず

オデュッセウスはトロイア戦争の英雄。「トロイの木馬」作戦の立案者。

ちょろ
ちょろ

実は武力も強くてアキレウスに次ぐ2位の実力。(アイアスと同列)

…幽閉された頭脳明晰な人物に謎解きを求める…まるで『羊たちの沈黙』のレクター博士さながら。

とはいえ、黒田官兵衛と荒木村重は敵同士。

官兵衛からすると自分を殺さず、牢につないだ村重への怒りや利害関係から直接的に助けることはできません。

謎解きに謎解きで答えるという形をとっています。

このあたりもハンニバル・レクターをほうふつとさせますね。

最初は、何を言われているのか理解不可能。

よくよく考えてみると真相について語っていた、という趣向。

戦国時代、舞台は籠城中の城。

緊迫した空気のなかで展開されるミステリーです。

多彩な作品を発表し続ける米澤穂信の新境地。

『黒牢城』の感想

戦国武将とはいえ、人間。

下剋上の時代、目まぐるしく変わる上下関係、敵と味方。

上に立つ者の孤独と悲哀、人間らしい弱さと矜持。

心理をきめ細かく描いています。

その点、ミステリーというより「時代小説」に比重が置かれている印象を受けました。

謎解きの部分がおもしろくなかったというわけではありません。

納屋に閉じ込められている人物が弓矢で殺害されたり、奇襲攻撃が成功したけれど、敵将を打ち取ったのが誰か分からなかったり。

誰からも慕われていた有徳の僧侶が殺害され、茶器が紛失したり。

落雷で絶命した内通者が実は鉄砲で狙われていたり。

どの話も読みごたえがありました。

落ち着いた文章ですが、はらはらどきどきしましたね。

読んでいて感じたのはこの時代をよく調べていること。

ときどき舞台だけが戦国時代、描かれている人物たちが現代の価値観で動くような作品がありますが、『黒牢城』は違います。

当時の死生観、宗教観が反映されていて興味深かったです。

戦国時代に詳しくない方もご安心ください。

ていねいに説明されているので前知識がなくても大丈夫。

安心してページを繰ることができます。

織田信長に関しては従来のイメージ通りに描かれていて物足りませんでしたが、歴史本ではないのでこんなものかと…。

参考文献に海上知明が入っていれば話が違っていたかもしれませんが。

黒田官兵衛の幽閉という史実からこれだけの話を膨らませた手腕はさすが。

荒木村重も共感できる人物に描かれていて面白かったですね。

時代物は登場人物の名前を覚えるだけで一苦労。

ですが、しっかりと描き分けがなされていて〇。

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忙しくて読書する時間がとれないという方にはこちら。

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私はどちらかというと米澤穂信は「日常の謎」を扱った作品が好みですが、これはよかったです。

『折れた竜骨』も力作でしたし、米澤穂信は力をこめて書いても上滑りしないところがすごいなと思いますね。

以下、軽くネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。****************************************************************

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 本書を貫く大きな謎。

それは歴史上の事実にあります。

「荒木村重はなぜ、織田信長を裏切ったのか?」です。

明智光秀の謀反同様、荒木村重の反乱と出奔には現在も明確な答えはなく、諸説あります。

専門家や歴史好きの間で今も侃々諤々(かんかんがくがく)の議論がなされていますね。

秀吉の重用に嫉妬した、足利義昭に対する義理立て、石山本願寺の要請を受けたなどなど。

もう一つの謎は「人望のある優秀な武将であった荒木村重がなぜ籠城中、妻子を置いて出奔したか」というもの。

ちょろ
ちょろ

様々な文献からうかがえる荒木村重の性格から考えると腑に落ちない行動です。

こちらもさまざまな説があります。

現存する肖像画は村重が大きな餅をほおばっているユニークなもの。

ひげ面でいかにも腕力がありそうな武将が、子供のような表情を見せる珍しい絵画。

これは織田信長と対面した時、刀に差された餅を食ってみろといわれて実行したというエピソードから来ています。

かなり豪胆な人物だったとうかがえる逸話ですね。

肖像画を見る限り、卑怯な小心者には見えません。

また、信長に仕えている間に挙げた功績を考えても優秀な人物だったことは疑いようのない事実。

「なぜ、裏切った?」「なぜ、逃げた?」―。

そんなところから米澤穂信はこの作品の想を得たのかもしれません。

彼が導き出した「解答」はといいますと…

ジョセフィン・テイの『時の娘』、井澤元彦の『猿丸幻視行』『隠された帝』、高橋克彦の浮世絵シリーズを読んだときのように「本当にこうだったのかも?」とは思いませんでしたが、お話としては面白かったです。

そもそも、謀反のうわさを聞いて何度も使者を送ってくる織田信長は相当、寛大な人間では?

と思うんですよね。

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この本を読んでいたので、特にそう思いました。

荒木村重に対しても非常に厚遇していたんですよね、信長。

どちらかというと歴史ミステリーというよりは『オデュッセイア』みたいな「冒険譚」として楽しめました。

米澤穂信の想像力で作りこまれた世界に遊ぶ感覚。

これも読書の醍醐味です。

これからもいろいろな小説で楽しませていただきたいです。

参考までに黒田孝高(官兵衛)と荒木村重の大辞林での記述を挙げておきます。

黒田孝高(くろだ よしたか)

(1546〜1604)安土桃山時代の武将。播磨の人。一時、小寺氏を称す。通称、官兵衛。

法号 如水。

豊臣秀吉の参謀格として、各地で転戦。また、文禄・慶長の役に従軍。関ヶ原の戦いでは徳川方に属す。キリシタン大名で洗礼名はシメオン。

(スーパー大辞林3.0)

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

面白い歴史ミステリーをあげておきますね。

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