東野圭吾『白鳥とコウモリ』あらすじと感想

ミステリー

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東野圭吾作家生活35周年記念作品『白鳥とコウモリ』(幻冬舎 ¥2000+税)。

500ページを超す大作です。

2021年4月出版。

帯の惹句は以下の通り。

「遺体で発見された善良な弁護士。一人の男が殺害を自供し事件は解決―のはずだった。」

『白夜行』『手紙』―新たなる最高傑作。東野版『罪と罰』

今回はこちらをご紹介したいと思います。

東野圭吾『白鳥とコウモリ』のあらすじ

 2017年秋。

東京都港区。

ある朝、違法駐車があるという通報が。

乗り捨てられた車の後部座席には男性の他殺体がありました。

腹部をナイフに刺されたままの遺体。

被害者は白石健介 55歳 弁護士。

やせ型、ダークな色のスーツを着ていました。

所持金の7万円は手つかずです。

物取りでなければ怨恨を疑うのが捜査の定石。

五代努刑事と中町刑事は聞き込みを開始しますが手ごたえがありません。

人情派で人望が厚かった被害者。

依頼人のことを何年たっても気にかける面倒見がよい人物です。

被害者遺族も職場の人間も、殺害動機を持つ人を考えつきません。

事件が暗礁に乗り上げるかと思いきや、白石の事務所の電話記録から一人の男が浮かび上がります。

倉木達郎 66歳 愛知県在住。

白石弁護士には遺産についての法律相談をしたと言う倉木。

その証言にある小さな齟齬から倉木の「嘘」を見抜いた捜査官。

倉木は容疑者になりますが、取り調べ中にあっけなく自供します。

ですが、彼の話す内容に違和感を覚えた人間がいました。

被害者 白石健介の娘 白石美令と加害者 倉木達郎の息子 倉木和真です。

ふたりは真相を探るべく、調査を開始します―。

『白鳥とコウモリ』の感想

 被害者・加害者どちらの家族も犯人の自供に納得しない―。

それも、第三者から見るとささいな点で「嘘」を見抜き、調査を進めていく―。

このあたりの展開が非常に巧みで、リアリティーがありました。

被害者遺族と加害者の家族がタッグを組んで真相を究明というとかなり荒唐無稽な設定に思えますが、さすがは東野圭吾。

細かいところから段階を踏んでいき、説得力を持たせています。

被害者遺族・加害者家族を取り巻く環境、マスコミの存在、裁判制度、時効など様々な問題について考えさせられる一冊です。

以下、少々小説の内容を含みます。

未読の方はご注意下さい。

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ガリレオシリーズのような大きなトリックはありません。

『容疑者Xの献身』のようなカタルシスを期待して読むとやや肩透かしをくらいます。

小さな事実を積み重ねて、証言を崩していくタイプの作品。

自白した倉木達彦の証言は現実味があって非常に巧み。

それをちょっとしたきっかけから根気よく突き崩していく息子 和真のリサーチが見事。

特に引っ越しにまつわるエピソードは「ありそう」の一言。

一方、被害者の人となりから倉木と白石の「接点」に疑問を持つ美令に関する部分は歯科医のくだりが白眉。

登場人物が端役に至るまで生き生きとしていて存在感があるので500ページあってもラストまでぐいぐい引っ張られます。

特に容疑者となる倉木達郎の暮らしぶりなど目に見えるよう。

こういう細部の描写、さすが東野圭吾、と思いますね。

 様々な賞をとり、作品は国内外で映画化・ドラマ化・舞台化される東野圭吾。

華々しいイメージがついてまわります。

実は非常に言葉の選び方がていねい。

日本語に対して真摯な姿勢を崩さない「作家の鑑」(さっかのかがみ)なんですよ。

そういう一面に興味のある方は佐野洋『推理日記Ⅵ』でのやりとりなどを読んでいただきたいですね。

年長者への礼儀は忘れず、自分の言いたいことを客観的・論理的に語るところがクール。

『毒笑小説』のようなブラックな作品も書きますが、とてもまじめで仕事熱心な方ですね。

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ちょろ
ちょろ

古い本ですが、電子書籍化されているのがありがたいです。

さて、この小説の中に

40代後半以上の人間にとっては忘れられない事件をほうふつとさせる設定が出てきます。

豊田商事事件。

事件の大きさ、深刻な被害、恐るべき幕切れで強烈な印象を残した詐欺事件。

東野圭吾はこの事件に対して相当、思い入れがあるのかほかの作品でも取り上げていますよね。

作品名は伏せますが。

あれを思い出しました。

そして、ラストまで読むとこれまた実在の事件を思い起こすはず。

奥野修司著『心にナイフをしのばせて』(文春文庫)の題材になった事件です。

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とてもやりきれない、痛ましい事件です。

東野圭吾はプロ中のプロ。

重いテーマを扱っても、救いのある読後感をもたらす術を身に着けています。

被害者遺族と加害者家族、「白鳥」と「コウモリ」のように相容れないものが協力し合い、真実にたどり着く。

その先に絶望があっても、光を見出せるラストを提示しています。

ですが、年を取った読者は実在の事件に引っ張られて重たい気持ちになりますね。

あまりにも悲惨な波紋を及ぼす事件でしたから。

このふたつの実在事件、他の作家も作品にしていますが、東野圭吾はこういう扱い方をするのだな、と興味深く読みました。

帯にある「東野版『罪と罰』」という言葉、的を射ていると思います。

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東野圭吾の『殺人の門』や『悪意』を楽しめた方にはおすすめです。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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