萩尾望都『私の少女マンガ講義』の感想 あふれる漫画愛にひたる

薔薇の花 読書

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2009年10月、萩尾望都がイタリアで3回にわたって行った講義をまとめた『私の少女マンガ講義』(新潮社 2018年)1500円(税抜)

開催地はナポリ東洋大学・ボローニャ大学・ローマの日本文化会館。

萩尾望都が選んだテーマは日本の少女マンガ史。

手塚治虫『リボンの騎士』からよしながふみ『大奥』まで。

実作者ならではの視点でまとめています。

本には質疑応答・萩尾望都が自作についてのインタビューに答えるというパートがあります。

読みごたえは充分

今回はこちらをご紹介したいと思います。

萩尾望都による少女マンガの歴史

 まず、女性で現役の漫画家が少女マンガ史を語るというのが画期的。

よしながふみが『あのひととここだけのおしゃべり よしながふみ対談集』で少し触れていました。

少女漫画を男性評論家だけが語ることへの懸念。

男性の漫画家・漫画評論家が少女漫画について語るとき、

自分たちの分かるものについてしか言及しない」問題

語られる作品と漫画家が偏ってしまうんですよね。

なので、女性たちがしっかり発言していく必要がある、と。

萩尾望都の『私の少女マンガ講義』はそういった意味でも意義があると思いますね。

 萩尾望都は講義の中で少女マンガを年代別に語っています。

『一度きりの大泉の話』の終盤にもちょっと歴史を振り返る部分がありました。

あちらの方がシンプルですが。

『一度きりの大泉の話』

1950年〜手塚治虫『リボンの騎士』。

敗戦後、貧しかった日本。

ヨーロッパの架空の国を舞台にしたお姫様やお金持ちが出てくるマンガにあこがれた時代。

男と女、両方の心を持つサファイア姫は「男の子に生まれたかった…」「男の子だったら…」という当時の少女たちの夢を背負った存在だった。

ちょろ
ちょろ

『リボンの騎士』はアニメ化されたよね。何度も再放送されています。

1960年代〜牧美也子、水野英子、西谷祥子、里中満智子。

アメリカ文化への憧れ時代。男性漫画家が描いていた少女漫画界に女性の描き手が多数出現。

しかも、16歳でデビュー。

「20歳過ぎてデビューするなんて遅い」といった空気すら生まれるほど若い少女漫画家が出てくる。

もず
もず

里中満智子が海外物を描いていたのは驚き。

わたなべまさこ『ガラスの城』、楳図かずお『ヘビ少女』、バレー漫画『サインはV!』『アタック№1』もこの時代。

1970年代 社会現象を起こす少女マンガ

山岸凉子『アラベスク』、池田理代子『ベルサイユのばら』、萩尾望都『ポーの一族』、いがらしゆみこ『キャンディ♡キャンディ』、美内すずえ『ガラスの仮面』、大島弓子、細川智栄子、青池保子、木原敏江、槇村さとる、大和和紀。

少女マンガの影響力が強くなった時代。

ちょろ
ちょろ

『ベルサイユのばら』ブームはすさまじかった。宝塚歌劇団の影響が大きいですが。

1980年 ニューウェーブの台頭

吉田秋生『BANANA FISH』、山岸凉子『日出処の天子』、高野文子、さくらももこ、清水玲子など従来の少女マンガとは違った作品を生み出す作家が出てきた時代。

岡崎京子、桜沢エリカ、安野モヨコなど都会を舞台にしたスタイリッシュな作品が出てくる。

もず
もず

どの漫画も強烈な印象を残しました。

1990年代 リアルな日常生活をオシャレな舞台に

今市子『百鬼夜行抄』、神尾葉子『花より男子』、岡野玲子『陰陽師』、矢沢あい『NANA』

昔のようにヨーロッパやアメリカを舞台にせず、日本を舞台にしたおしゃれなマンガが出てくる。

現実にいる少女のファッションをリアルに描くなど漫画の世界が身近になる。

2000年代 少女マンガに流れるフェミニズム

二ノ宮知子『のだめカンタービレ』、すえのぶけいこ『ライフ』、惣領冬実『チェーザレ』、よしながふみ『大奥』。

悪戦苦闘しながら人生を生きる女性たちの物語。

こんな感じです。

有名な漫画家と作品名をていねいにおさえながら、流れがよくわかるように解説されるのはさすが。

なによりも、萩尾望都が若い世代の作品をよく読んでいることに驚かされます。

ここでは触れませんでしたが、少年漫画・青年漫画にも一部触れていて業界を俯瞰する眼に感嘆することしきりでした。

ビッグコミックスピリッツの新しさについてなど。

確かに一時期は予約なしでは入手困難な時がありました…。

漫画を区別せずに、一読者として楽しむのが萩尾望都の流儀。

この姿勢は頭が下がります。

『私の少女マンガ講義』質疑応答部分の感想

イタリアの学生たちが日本の少女マンガについてどんな質問をするのかとても興味がありました。

影響を受けた作家について、イタリアで日本の少女マンガが読まれていることについての感想など想像がつくものはあります。

おもしろかったのは『イグアナの娘』にカフカ『変身』は影響を与えているか、というもの。

ちょろ
ちょろ

思いがけない質問でびっくり。理解しあえない母と娘の寓話だよね。

驚いたのはこの質問くらいですかね。

あとは、

どうして日本の少女マンガにはホモセクシャルの話が多いのか?とか。

どうして日本では少女マンガ原作のドラマや映画が多いのかとか。

まあ、日本人が不思議に思うことはイタリア人にも不思議みたいです。

この部分で興味をひかれたのは、『イグアナの娘』ドラマ化の話が来た時に萩尾先生は一度お断りしているというところ。

しかも、理由が作品に対する思い入れとかではなくお茶の間にイグアナってどうよ?

イグアナの着ぐるみかぶらされる女優さんが気の毒、という…。

ドラマ化が成功した時にはほっとされたのでは?(笑)

タリアでの講義では『イグアナの娘』と『柳の木』を解説しています。

漫画も収録されているので未読の方でもOK。

 この本を読んでいて感じたのは、萩尾望都は本当に漫画が好きで好きでたまらないんだな、ということです。

先輩漫画家はもちろん、若い世代の漫画家にも敬意を払っていて、好きな作品を語るときの熱意とわくわく感が紙面から伝わってきます。

実践的な部分もあり。コマ割りについてのあれこれ

 漫画の内容や歴史的な意義についてのお話が多い『私のマンガ講義』。

実作者ならではの部分があります。

それは、コマ割りについて。

手塚治虫、横山光輝、わたなべまさこから松本大洋、オノ・ナツメ、羽海野チカまでそれぞれの特徴について述べています。

これがとっても面白い。

松本大洋、オノ・ナツメはわざと定石から外れたコマ割りをして読者を驚かせるという指摘。

たしかに…というか萩尾先生は『ピンポン』も読んでいるんだ!とびっくり。

特に萩尾漫画における横山光輝の影響や、調子が悪くなるとわたなべまさこ先生のコマ割りを参考にするというところが非常に興味深かったです。

古典作品を読む意味というのはこんなところにもあるんだな、と目からうろこが落ちました。

もず
もず

古典を読み込んでいる作家は息が長いですよね。

ま と め

 後半、萩尾望都が自分の作品について語っているインタビューが収録されています。

『残酷な神が支配する』『バルバラ異界』『AWAY』『ポーの一族』の「春の夢」、『王妃マルゴ』などなど。

とても内容が濃い一冊でした。

ファンなら手元に置いておきたくなる本ですね。

漫画愛にあふれた書籍。

ぜひ、手に取ってみてください。

*竹宮恵子『少年の名はジルベール』の解説でサンキュータツオさんがこの本に竹宮恵子の名前が出てくる、と書いておられました。

気になる方がいらっしゃるでしょうから書いておきます。

1章 イタリアでの少女マンガ講義録 p45「追記」にて

講義で取り上げなかったけれど好きな漫画家や有名な漫画家の名前に挙げられています。

雑誌別に挙げておられるのが実作者らしい。

「『少女コミック』で描かれていた上原きみ子先生、竹宮恵子先生、名香智子先生。」

前後には美内すずえ、和田慎二、忠津陽子、庄司陽子などそうそうたるメンバーが並びます。

ご興味のある方はどうぞ。

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お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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