映画『特捜部Q カルテ番号64』感想とネタバレ 原作との違いを解説!

映画と原作

北欧ミステリーの人気シリーズ『特捜部Q』

その第四作目に当たるのが『特捜部Q カルテ番号64』。

原題は『JOURNAL 64』

2018年に映画化されました。

ユッシ・エーズラ・オールスンの原作を大胆に脚色しています。

この映画版は小説とはかなり内容が異なるんですね。

同じシリーズの第一作『特捜部Q 檻の中の女』(2013)や第二作『特捜部Q キジ殺し』(2014)はかなり原作に忠実。

第三作『特捜部Q Pからのメッセージ』(2016)は長い原作をタイトにまとめて映画的な見せ場を作った印象でした。

この第四作『特捜部Q カルテ番号64』は様相が違います。

映画製作スタッフが独自の解釈を押し出してきたような印象ですね。

そのため、映画しか観ていない方は原作を、小説だけを読んだ方は映画版をそれぞれハラハラしながら堪能できると思います。

ちょろ
ちょろ

小説と映画、どちらにもそれぞれの持ち味がありました。

この記事を読むとこんなことがわかります。

  • 映画版『特捜部Q カルテ番号64』のあらすじとネタバレ
  • 『特捜部Q カルテ番号64』原作との違い
  • 『特捜部Q カルテ番号64』と同様のテーマを扱った作品
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映画『特捜部Q カルテ番号64』あらすじとネタバレ

 1961年 ドラオアの海岸。

*ドラオア;コペンハーゲン中心部から12kmの都市。

ティーンエージャーの少女ニーデが待ち合わせの場所に走っていきます。

彼女を待っていたのは青年デーイ。

ふたりは恋人同士で、浜辺にとめた自動車の中で愛を確かめ合います。

そこにやってきたニーデの父親。

怒り狂い、ニーデとテーイを引き離します。

「テーイはお前の従兄弟だぞ!」

泣きながら父親に連れ変えられるニーデ。

力ずくで家に連れて帰られましたが、ニーデの恋心は親の反対では消せません。

彼女に手を焼いた父親からスプロー島にある女子収容所に送られてしまいます。

そこは知的に障害のある女性や素行の悪い女性が入れられる施設。

外界から遮断され、問題のある女性たちを矯正する場所。

矯正施設と言うのは表向きの顔。

実は、劣悪な環境で施設のスタッフが収容者を虐待するおそろしい場所でした。

ニーデはテーイの子供を身ごもっていましたが、妊娠を隠して収容所生活を始めます。

スプロー島の収容所は優生政策の見地から収容者を不妊手術する場所であったからです。

*優生(ゆうせい);遺伝的に優良な性質を保存しようとすること。

同室のリタ・ニルスンはきれいな外見をしていますが、悪賢くてすれていた少女。

看護師のギダ・チャールズ、医師のクアト・ヴァズは不気味な存在です。

これからの収容所生活におびえるニーデ。

ニーデの周りには不穏な空気が立ち込めています。

 時がたち、現代のデンマーク。

ある集合住宅の部屋を、間取りがおかしいということで業者が調べていました。

部屋には本来、ないはずの壁があります。

壁を壊すとなんと、男女のミイラ化した遺体が3体出てきたのです!

しかも、いすに腰掛け、ホルマリン漬けにされた臓器などが置かれた食卓を囲んでいます。

テーブルにはレストランの予約席のように名札が載っていました。

リタ・ニルスン、ニーデ・ヘアマンスン、フィリップ・ナアヴィー。

そして一つの空席。

部屋の持ち主はギデ・チャールズ。

家賃は銀行から引き落とされていますが、行方不明です。

事件を解決するために過去の行方不明者との照合が急務。

特捜部Qのカール・マークとアサド、ローサが捜査に乗り出します。

関係者に話を聞き、書類を調べ、被害者3人と部屋の持ち主の共通点が見つかります。

ニーデとリタ、ギデ、フィリップはスプロー島の女子収容所に関係していたのです。

フィリップ・ナアヴィーはニーデが出所後、収容所を訴えたときに敵対した弁護士。

事件の核心はスプロー島。

そしてその中心にいるのは異常なエリート思想を持つ医師クアト・ヴァズとその同志たち。

一方、コペンハーゲンの街では移民の少女たちが匿名で堕胎手術を受けていました。

その中にはアサドが仲よくしている食料品店の娘ヌールも。

ヌールが行った病院はクアト・ヴァズの経営する施設。

術後、腹部の痛みを訴えてアサドの知るところとなります。

なんとクアト・ヴァズはかつては育ちや素行で女性たちを選別し、気に入らないものに不妊手術を施していましたが今ではターゲットが移民になっていたのです。

事件の核心に近づくにつれ、特捜部Qに横やりが入ってきます。

クアト・ヴァズの病院で子供を授かった上司からの圧力、クアトの一味によるカール・マークとアサドへの襲撃。

情報提供者の殺害。

重要書類を移送中に襲われたカール・マーク。

ほとんどを燃やされてしまいますが、車中で読んでいた一枚だけなんとか手元に残りました。

カルテ番号64。

ニーデ・ヘアマンスンのカルテです。

カルテを読んだカール・マークは重要なことに気が付きます。

そして、調査員に「あること」を調べてもらいます。

結果を聴き、単身で外出するカール・マーク。

国境でひとりの老女に声をかけます。

「ニーデさん。ニーデ・ヘアマンスンさんですね?」

「ギデ・チャールズが指名手配なので、ご自分のパスポートを使いましたね?」

「カルテを読んでわかったんです。ギデ・チャールズには動機がない。

でも、あなたにはあります。」

ミイラになっていたのはギデ・チャールズ。

ニーデは殺したギデの遺体の前に自分の名前が書いてある名札を添え、自分のペンダントをつけさせていたのでした。

ニーデは一度は逃亡を図りますが、観念してカール・マークに事の仔細を語ります。

スプロー島の女子収容所が閉鎖され、出所してテーイと暮らしたこと。

収容所で意に反して堕胎と不妊手術を受けさせられたニーデには子供が出来ず、別れたこと。

その後、自分の人生をめちゃくちゃにした人たちを呼び出して復讐したこと。

一番恨んでいたクアト・ヴァズだけには近づけず、ギデ・チャールズのふりをしていたこと。

その後、またテーイと再会し、幸せに暮らし、復讐を忘れたこと。

幸せな生活を送っていたけれどテーイが他界、遺言によって海に遺灰をまきにきたこと。

カール・マークはニーデを逮捕する意思がないこと、クアト・ヴァズを必ず逮捕することを約束します。

そのころ、アサドはクアト・ヴァズの病院で勝手に不妊手術をされたヌールを探していました。

承諾していない手術に激怒した彼女が病院に乗り込み、行方不明になったからです。

クアト・ヴァズは最初はしらばっくれていましたが、気絶したヌールをアサドが見つけたとたんに豹変。

アサドを襲います。

加勢に来たと思った警察官もクアト・ヴァズの一味。

絶体絶命のところを帰ってきたカール・マークに助けられ、一命をとりとめたのでした。

クアト・ヴァズとその同志たち「寒い冬」のメンバーたちは逮捕され、特捜部Qに平穏な日々が戻ったのでした。

1961年まで実在したスプロー島の女子収容所。

現代にもはびこる優生思想、不穏な組織。

ニーデとテートの愛情が一縷の光となる作品です。

映画『特捜部Q カルテ番号64』原作との違い

映画と小説の大きな違い。

まず、最初にアパートの遺体がみつかってしまうところ。

小説では最後の最後に出てくるシーンです。

いきなりネタバレ映像でちょっと驚きますね。

原作ではリタ・ニルスンの失踪事件を追っていたローサとアサドが同時に5人の大人が失踪していることをみつけ調べ始めます。

ちょろ
ちょろ

失踪したリタ・ニルスンがマドンナの大ファンだったことからローサの調査に熱が入ります。

この、ある一日の失踪者 5人という数字はデンマークでは多いらしいです。

ミイラになった被害者の数や人選も違います。

【原作の被害者】

◆リタ・ニルスン

◆デーイ・ヘアマンスン

◆ギデ・チャールズ

◆ヴィゴ・モーウンスン

◆フィリップ・ナアヴィー

もず
もず

映画版ではニーデと人生を共にした従兄弟のテーイ。原作ではミイラになってます。

 原作小説ではニーデの人生を細かく追っています。

双子の兄を持ち、農場で暮らした少女時代。

母親を亡くした後、すさんだ父親にほぼ育児放棄されてしまったこと。

男ばかりの中で育ったため、言葉遣いが荒く、表現がきわどかったため小学校を追い出されたこと。

読み書きが満足にできないことで、不当な扱いを受けたこと。

仲の良かった従兄弟テーイと関係を持ったけれど、ニーデが妊娠すると責任を取らなかったこと。

流産して里親のところで生活しているときにヴィゴ・モーウンスンと出会い、また妊娠。

堕胎手術を受けるときに島の医師二世クアト・ヴァズに襲われたこと。

クアト・ヴァズを暴行の容疑で訴えたけれど誰にも相手にされなかったこと。

裁判に負け、ケラー式療養所送りになったこと。

そこで出会ったリタ・ニルスンにそそのかされ脱出しようとして失敗。

スプロー島の女子収容所送りになったこと。

収容所の生活に耐えられず、リタと脱走しようとしたときにヴィゴ・モーウンスンと再会。

ニーデのことを全く覚えておらず、関係を強要されたうえで裏切られたこと。

ちょろ
ちょろ

不運の連続ですが、救いもあります。

収容所を出た後、イーレク・ハンストホルムとその妻マリアネと出会います

難聴の人たちに物を教えている教師夫妻です。

彼らはニーデの中に学習への熱意を見出し、保護者となります。

そしてニーデに教育を受けさせ、「きみはそれでいい」と自己肯定することを教えたのでした。

それからのニーデの努力と成長は目覚ましく、実業学校へ行き、検査技師になるための専門教育を修了。

大きな会社に就職し、社長のアンドレアス・ローセンと結婚。

波乱万丈な半生で、やっとつかんだ幸福でした。

しかし、またもや不運がおそってきます。

ニーデが復讐を開始したきっかけはこの結婚をクアト・ヴァズに壊されたことなんです。

ある日、夫とパーティに出ていたニーデ。

運悪くクアト・ヴァズに出会ってしまいます。

クアトはニーデに「ここはお前のような女が来るところではない」と侮辱。

間に入ったニーデの夫アンドレアス・ローセンも罵倒します。

帰りの車中、ローセン夫妻はニーデの過去をめぐり喧嘩。

交通事故を起こしてしまい、夫は返らぬ人となったのです。

裕福な夫の遺産があったからこそ、ニーデは復讐に没頭できたわけですね。

犠牲者たちをお金でおびき出しています。

原作のクアト・ヴァズはニーデに対して異常なほど嫌悪感を持っています。

映画では茶色い髪だったニーデ。

実は原作のニーデは金髪碧眼の、きわめて北欧的な美女。

…なのですが、クアトは生まれと育ちだけでニーデを差別しているんですね。

ちょろ
ちょろ

クアトの妻はニーデと同じタイプの美女。出自と経歴の違いで選別するんですね。

胸が悪くなります。

クアトは異常な思想の持ち主ですが、献身的な愛妻家。

病気の妻を献身的に介護します。。

医者にして、「明確なる一線」という政党の党首。

選挙戦のさなかですが、妻亡きあとは自害を考えているほど思い詰めています。

このあたり、人間は一筋縄ではいかない、一面だけでははかれない部分があるという作者の現実認識が感じられて深いですね。

映画では移民に対する差別をクローズアップしていましたが、原作では歪んだ選別思想が目立ちます。

そして何と言っても一番大きな違いは「犯人」。

ニーデは被害者を呼び出してひとりずつ殺害していたのですが、ギデ・チャールズに返り討ちにあってしまいます。

その後、二十年ほどギデ・チャールズがニーデのふりをして生活していたわけ。

ニーデがクアト・ヴァズへの復讐を途中であきらめたのは死んでしまっていたから。

最後は悪夢のようなミイラが座る部屋でカール・マークとクアト・ヴァズ、ギデが対峙します。

思うに、映画を製作した人たちは移民問題を取り上げたかった。

そして、ニーデの復讐を成し遂げさせたかったのでしょうね。

不運続きだった彼女に平和なひと時を与えたい―。

そんな思いがあったのかもしれません。

ただし、映画のニーデは原作のニーデほど魅力がありません。

ニーデの生来の賢さ、器用さ、不屈の精神。

意思の強さと行動力―。

復讐は頓挫してしまいましたが、小説を読んだものの心の中には生き続けます。

ラストで恩師ハンストホルムがニーデの墓を訪れるシーンは涙が出ます。

あらすじを知っても、小説の魅力は変わらないと思います。

同様のテーマを扱った映画や小説について

スプロー島の女子収容所は前述したとおり1961年まで実在していました。

かなりショッキングな話ですね。

デンマークでも同様な衝撃を与えたようで、この『特捜部Q カルテ番号64』はシリーズの中でも特に広く読まれたそうです。

スプロー島ほどひどい施設でなくとも、同様な話は他国にもあります。

日本にも1947年までは国民優生法がありました。

ドイツはナチスの断種法が有名です。

もず
もず

ナチスの断種法はさまざまな小説や映画になっていますね。

もっと身近なものでは

2002年に制作され、話題になった映画があります。

アイルランド・イギリス合作の『マグダレンの祈り』

監督・脚本はピーター・マラン。

原作はジューン・ゴールディングのノンフィクション『マグダレンの祈り』。

問題があるとみなされた少女たちが集められ、洗濯という当時の重労働をさせるマグダレン洗濯所の話。

知的に遅れているとみなされたり、結婚前に異性と交渉があったり、時には目立つというだけで収容された女性がいたそうです。

上のDVDのジャケットになっている少女は美貌のために収容された少女。

男性を誘惑するに違いない、と言いがかりをつけられてマグダレン送りになったバーナデット役の女優ノラ=ジェーン・ヌーン。

きれいですね〜。

もず
もず

美しすぎて収容所送りって…

施設の中では職員によるいじめや虐待がはびこっていたとか。

スプロー島の施設も同様ですが、入った方が人間的に悪くなりそうな施設ですね。

 クアト・ヴァズのような狂信的な優生思想を持った登場人物が出てくる話も欧米には多いですね。

ヘレン・マクロイ、トマス・H・クックなどが優れた作品を書いています。

こういう小説や映画に触れると、「人間って本当に愚かだな」と思いますね。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

少しでも参考にしていただけるとうれしいです。

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