映画『白いカラス』あらすじと感想*ネタバレあり*人生において大切なものは?

映画と原作

 2003年のアメリカ映画『白いカラス』。

原作はピューリッツアー賞受賞の作家フィリップ・ロスの『 The Human Stain』。

監督は『ボニーとクライド』(1967)『クレイマー・クレイマー』(1979)で有名なロバート・ベントン。

出演はアンソニー・ホプキンズ、ニコール・キッドマン、ゲイリー・シニーズ、エド・ハリス他

今回はこちらの映画を紹介したいと思います。

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映画『白いカラス』のあらすじと感想

 1998年アメリカ マサチューセッツ州。

クリントン大統領の弾劾裁判が人々の話題をさらっていた頃。

アテナ大学でユダヤ人初の古典文学教授となったコールマン・シルク(アンソニー・ホプキンズ)は講義中、一度も出席していない学生に対して皮肉を言います。

「彼らは幽霊(spook)か?」

この言葉が問題になります。

出席していなかった学生はアフリカ系。

「spook」は幽霊やおばけを表す単語。

ですが、アメリカの俗語では黒人の意味があったからです。

すぐに会議が開かれます。

シルクは学生がアフリカ系であることなど知りませんでした。

シルクは欠席続きの学生について嫌味を言っただけ。

他意はなかったと弁解します。

ですが、「政治的に正しい」風潮がはびこっていたアメリカ。

シルクは糾弾されます。

シルクが学部長として引き立てた黒人の教員ハーブ・キーブルさえ味方してくれません。

シルクは大学を去りますが、あまりのことの成り行きに妻がアイリスが脳卒中で帰らぬ人に。

コールマン・シルクはひとりぼっちになってしまいます。

 ある晩、シルクはネイサン・ザッカーマン(ゲイリー・シニーズ)という作家を訪ねます。

自分の事件を本にしてほしい―。

学者とはいえ、青年時代はボクサーを志していたシルク。

持ち前の親しみやすさと人間的な魅力で若いネイサンと友人になります。

そして、シルクはネイサンに34歳の若い恋人がいることを打ち明けるのです。

彼女の名前はフォーニア・ファーリー(ニコール・キッドマン)。

郵便局とアテナ大学の掃除婦、牧場で牛の世話をする女性です。

ブロンドで身長が非常に高く、やせ型。

厳しい雰囲気を持つフォーニア。

シルクとフォーニアはある日、たまたま出会いその日のうちに親しい関係になりました。

実は彼女は離婚歴があり、前夫レスター・フォーリー(エド・ハリス)に付け回されています。

ベトナム帰還兵であったレスターは精神状態が不安定。

祖父と孫ほどの年齢差、社会的な地位の差、レスターの存在―。

シルクの知人たちはふたりを引き離そうとしますが、シルクは聞く耳を持ちません。

そんな中、事件が起きます―。

 あらすじだけを読むと人種差別を扱った社会派映画かと思われそうな本作。

は恋愛ドラマでもあり、ヒューマンドラマでもあります。

映画『白いカラス』のネタバレ

コールマン・シルクは貧しい環境から努力で大学教授まで上り詰めた人物。

彼には秘密がありました。

それは周囲には「白人」としてふるまい、家庭すら築いたのですが実は黒人だということ。

時に黒人でも肌の色が白く生まれつく人がいます。

コールマン・シルクがまさにそうだったのです。

彼が「白人」として生きようとしたのには理由がありました。

若い頃、図書館で出会った北欧系の美女スティーナ。

アイスランド系デンマーク人です。

すらりとした長身、ブロンドで知的な女性。

シルクは彼女と真剣に恋愛をし、結婚を意識しはじめます。

彼女を母親に会わせたい―。

もちろん、スティーナにも異論はありません。

会う直前までは「お母様に気に入っていただけるかしら?」と興奮していたガールフレンド。

玄関でシルクの母親に会ったとたん、態度に変化が見られます。

シルクの母親もスティーナを見て明らかに困惑している様子。

帰り際、列車の中でスティーナに「あなたのことは愛しているけれど結婚できない」と言われたシルク。

ショックを受けます。

「愛」は人種間のへだたりを乗り越えることができなかった―。

それ以後は「白人」として生きることを決意します。

彼の父親はシルクの進路をハワード大学(名門黒人大学)と決めてかかっていましたが、

シルクはピッツバーグ大学に進学すると言って譲りません。

父親が過労で亡くなった後、シルクは母、兄、妹と縁を切りひとりで「白人」として暮らし始めました。

妻にも嘘をついたまま―。

自分の出自を白日の下にさらせば、大学での冤罪は晴らせたはず。

ですが、シルクは嘘を守ることを選んだのです。

そして恋人のフォーニアにも過去に傷がありました。

裕福な家庭に育ったのに両親は離婚。

母親の再婚相手に虐待を受け、母親から守ってもらえなかったこと。

子供たちを事故で亡くし、前夫から責められていたこと。

まるで自分に罰を受けさせるかのように肉体労働を課してきたこと。

シルクはフォーニアに自分の秘密を打ち明けますが、二人を付けていたレスターの自動車をよけるため、交通事故。

二人とも同時に他界したのでした。

シルクは死後、大学で名誉挽回されますが後の祭り。

葬式にはシルクの妹が訪れます。

ネイサンはシルクの実妹を見て彼の秘密を知り、シルクの生涯を本にするのでした―。

原作『ヒューマン・ステイン』で分かる映画の細部

 原題を直訳すると「人間の汚れ」「人間のしみ」。

映画の邦題『白いカラス』はシルクの出自を端的に表した言葉になっていますね。

シルクのような肌の色を持つ人物はアメリカの小説やドラマによく登場します。

黒人女性で初のノーベル文学賞を獲得したトニ・モリスンの『青い眼がほしい』(1970)。

白人の価値観に翻弄される黒人少女 ピコーラの悲劇を描いた衝撃的な作品。

その中に、肌の色が薄いことを誇る黒人の美少女が出てきます。

2004〜2009年にアメリカで制作されたドラマ『Lの世界』では美術館のキュレーターをしているベットというキャラクターが登場。

肌色が薄いのをいいことに白人のようにふるまっている、と同じく黒人の女性キャラクターに責められる場面がありました。

黒人同士であっても肌の色によって差が生まれる―。

それぞれに見解の相違があるのですね。

原作を読むとコールマン・シルクは

  • 黄色っぽい肌の色
  • 頭髪が縮れている
  • 緑色がかったハシバミ色の瞳
  • 人形のように整った顔立ち
  • 身長は170cmちょっと

南部出身者や黒人同士であればわかるけれど、他の地域であれば「白人」で押し通せる外見です。

(実際に原作ではシルクも見破られたことがありました)

原作ではスティーナと別れた後、魅力的な黒人女性エリー・マギーと交際します。

エリーはコールマン・シルクにニューヨークではシルクのように白人のふりをした人がたくさんいることを教えます。

ふたりはとてもうまく行っていたのですが、シルクはエリ―とは別れてユダヤ人のアイリスと交際を始めます。

コールマン・シルクの上昇志向、自分以外のものになりたいという願望がエリ―との別離を決定づけます。

アイリスはユダヤ人。

縮れた黒髪の女性です。

彼女とであれば子供を作って、黒人の特徴がみられても不自然ではない―。

こんなきわめて利己的で空っぽな理由。

ちょろ
ちょろ

アイリスからするとふざけるな、って感じですよね。

もず
もず

真相を知らずに他界したのは不幸中の幸いかもしれません。

秘密を抱えた老人男性と、心に傷を負った30代女性の関係。

地位と名誉のために家族と出自を捨てたシルクと、

両親の離婚、母親の再婚、義理の父親からの虐待から家を飛び出したフォーニア。

行き場のないふたり。

ラストは心中のようにも見えました。

いったいふたりは人生でなにを失い、何を得たのか?

深く考えさせられる作品です。

映画は終始シリアスですが、原作は重たいテーマを扱いながらも明るさがあります。

日本では翻訳された本が絶版ですが、英語版のペーパーバック版は今でもベストセラー。

(2021年9月初旬 Amazonにて)

分厚いですが、読み応えのある小説です。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

少しでも参考にしていただけるとうれしいです。

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