『雨の訪問者』あらすじと感想 *ネタバレあり【ルネ・クレマン監督作品】

映画と原作

フランス映画の巨匠 ルネ・クレマン監督の『雨の訪問者』。

原題は LE PASSAGER DE LA PLUIE

チャールズ・ブロンソン主演。

1970年公開のフランス・イタリア合作映画です。

セバスチャン・ジャプリゾ脚本というとミステリー好きの血が騒ぎますね。

『シンデレラの罠』『新車のなかの女』などが有名な推理小説作家です。

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映画『雨の訪問者』のあらすじ

  マルセイユにほど近い町 カプ・デ・パン。

まだ幼げの残る人妻メリーが母親と窓から雨を眺めていると

バスから一人の大柄な男が降りてきます。

粗末な服装、やや野蛮な外見。

まじめな勤め人には見えません。

メリーの夫は旅客機の副操縦士。

いつも外出していますが、この日はあと数時間で帰宅する予定。

メリーは知り合いの結婚式のためにブティックへ行きドレスを試着します。

窓から先刻の男がメリーを見てにやにや笑い。

着替えを覗かれてしまいます。

 その日、メリーが帰宅して家を片付けていると

暴漢が入ってきて彼女に襲いかかります。

災難に遭い、一時は茫然としたメリー。

気を取り直し、家に置いていたショットガンを手に取り、

地下室に隠れていた男を射殺してしまいます。

メリーは小柄な女性ですが必死に死体を車に積み込み、

 海に死体を投げ捨てました。

ほっと一息つくメリー。

次の日は知人の結婚式。

結婚式のダンスタイムに見知らぬ男がメリーに近づいてきます。

彼の名はハリー・ドブス。

「なぜ、あの男を殺したのか?」

ハリーはメリーに言い放ちます。

何もかもお見通し、といった態度。

終始笑顔を絶やさぬ謎の男の尋問にメリーは困惑します。

実はハリー・ドブスはアメリカの軍人。

大金を持って逃げた犯人を追っているのだと言うんですね。

メリーは「何も知らない」で押し通そうとしますが、海岸に男性の死体があがってしまいます。

警察官の知人から聞いたところによるとある女性が疑われているらしい―。

自分が犯した犯罪のせいで無実の女性が疑われてしまう!?

メリーは良心の呵責から行動を起こすのですが―。

 冒頭からルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』抜粋が出てきます。

アリスが穴に落ちていく箇所です。

人妻とは思えぬ子供っぽさを残すメリー。

彼女を時に銃で脅し、時に懐柔しようとするハリー・ドブス。

まぜっかえされる質問とその答え。

まるでマッドハッターとアリスのよう。

事件を発端に崩れていくメリーの平穏な日常生活。

交錯する過去。

『雨の訪問者』はルネ・クレマン版『不思議の国のアリス』なのです。

キャスティングや音楽や衣装について

ハリー・ドブス チャールズ・ブロンソン

メリー(メランコリー)・モー マルレーヌ・ジョベール

ニコール ジル・アイアランド

音楽 フランシス・レイ

「雨の訪問者のワルツ」は有名ですね。

映画を観たことがなくてもどこかで耳にしたことがあると思います。

昔はサントラ盤が出ていたほど人気がありました。

フランシス・レイはアコーディオンの名手であり、有名な作曲家。

フランスのニース出身。

優れた映画音楽の作り手として世界で名を知られた人ですね。

「ある愛の詩」、「男と女」、「白い恋人たち」、「個人教授」、「愛と哀しみのボレロ」など

映画を観ていなくてもどこかで聞いているはず。

 ブティック店員ニコールを演じたジル・アイアランドは金髪の非常に美しい女優。

チャールズ・ブロンソンの妻でいくつもの作品で共演しています。

この二人の存在感は素晴らしい。

人形のような端正な美貌のジル・アイルランドとワイルドでユニークなブロンソン。

この対比が絵になりますね。

 さて、メリーを演じたマルレーヌ・ジョベールは映画中、ずっと純白の衣装を身にまとっています。

デザインはシックなものから奇抜なものまで幅広い。

『不思議の国のアリス』というとディズニー映画とテニエルの挿絵があまりに有名。

その中でアリスはブルーのワンピースに白いエプロンを身に着けています。

実は原作者ルイス・キャロルは『不思議の国のアリス』の元となる「地下の国のアリス」

の挿絵を描いています。

原題は『Alice’s Adventures under Ground』

もず
もず

世紀末のロンドンでは地下資源の発掘がさかんになりました。

そのため、このタイトルは誤解を招くということで出版の際に

変更されたとか。

ちょろ
ちょろ

アンダーグラウンドでの冒険というと『雨の訪問者』と

イメージが重なってくるね。

アリスはウエーブのある長い髪、着ているのはスクエアカラーで裾がたっぷりしたワンピース。

写実を重視したラファエル前派的な絵柄です。

(写真は昔、書籍情報社から出版された復刻版から。装丁も忠実に復元されています。)

アリスというとすぐに頭に浮かぶ青いワンピース・白いエプロン・黒のヘアーバンドはのちに作られたイメージなんです。

ルイス・キャロルの挿絵には色がついていませんでした。

後年BBCが制作した実写版『不思議の国のアリス』では衣装を、ルイスの原画に忠実に再現しています。

実写版でアリスは薄いピンク色のワンピースを着ていました。

ルイス・キャロルは白・もしくはあわい色のワンピースを頭に描いていたと思われます。

ルネ・クレマン監督はルイスの絵を見て、白を選択したのかもしれませんね。

ミニスカートでマルレーヌ・ジョベールの脚線美を強調しています。

衣装を担当したのはフランスの衣装デザイナー ロジーナ・デラマーレ。

2013年に永眠されるまで100以上の映画で衣装を担当したベテラン。

女性の美点を強調するファッションがフランス・イタリアらしいです。

 思いがけない災難から幸福な日常を失うメリー。

ウサギ穴に落ちたアリスのように五里霧中。(ごりむちゅう)

せめて、衣装だけでも楽しませたいというクレマン監督の親心?でしょうか。

元となっているアリスも、穴に落ちた後は命令されたり、人違いでこき使われたり、

ずぶぬれになったり、体のサイズが変わったり。

挙句の果てには裁判にかけられますからね。

結構な受難の物語です。

チェコの映画監督 ヤン・シュヴァンクマイエルが不気味な映画『アリス』を作ったのも

納得です。

メリーの名前もルイス・キャロル的な言葉遊び。

メリーの本名はメランコリー。

家出した父親が付けた名前です。

ニックネームは陽気な、本名は憂鬱な。

意味深です。

ネタバレ注意! 作品のメイントリックについて

さて、

ここからは映画のネタバレを含みます。

古い映画とはいえ、観ていらっしゃらない方はご注意ください。

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 この映画のメイントリックは 実は死体が2つあったというもの。

殺人事件は2つ起こっていたんですね。

メリーは自分が犯した殺人で別の女性がつかまる!と良心の呵責からパリにまで出向き、

危険にさらされます。

が、実はそちらの女性は本当に別件で犯人だったわけです。

終盤、メリーが殺害した男の死体が海岸で発見されますが、ドブスはメリーの人生を救うべく

証拠を隠滅します。

サスペンスを期待してみると展開が遅くもやもやします。

現代の感覚で観ると非常に牧歌的。

ハリー・ドブスが「時間がない」といいつつ、メリーを尋問する途中でさっさと帰るので

観ているこちらは唖然。

アメリカの軍人がなぜ、強盗を追っているのかという謎も回収されません。

謎解きではなくルネ・クレマン監督の映像と音楽、俳優の演技を堪能する目的であれば〇だと思います。

映画こぼれ話

  ラスト、メリーの犯行を見逃すチャールズ・ブロンソン演じるハリー・ドブス。

彼が石を投げて窓ガラスを割るシーンがあります。

映画の中でメリーとドブスは「(物を投げて)窓ガラスが割れたら誰かを愛している証拠」という乱暴な花占いみたいなことをしていたんですね。

ドブスの投げた石で窓ガラスが割れ、彼がメリーを愛していることに気づくというラストです。

あれ、コマ送りして観るとチャールズ・ブロンソンが投げたものは別の方角へ

窓ガラスを割ったのはスタッフが投げた小石?みたいなものでした。

その昔、映画がスクリーンで観られていた時代にはこんな細かいところをストップモーションで

再生する観客なんて想定していなかったんでしょうね。(笑)

ちなみに古い日本の時代劇やアクション活劇にも同様のことが言え、

実は決闘シーンで主人公の方が負けていた(敵の刀の方が先に体に当たっていた)なんてことも。

映画って面白いですね。

本筋とは無関係な細部を見ていても楽しめます。(笑)

お付き合いいただきありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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