ルキノ・ヴィスコンティ監督のおすすめ映画 【華麗な映像美3選】

ヴィスコンティの作品群 映画・ドラマの原作本

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イタリア映画の巨匠ルキノ・ヴィスコンティ。

「ヴィスコンティ作品を観たいけれど、どれを選べばいいかわからない」

「とりあえず何を最初に観たらよいのか知りたい」

そんな方におすすめの3作品をご紹介したいと思います。

まず、ヴィスコンティの略歴。

1906年11月2日〜1976年3月17日。

イタリア貴族ヴィスコンティ家の血筋に生まれ。

デビュー当初は『郵便配達は二度ベルを鳴らす」や『揺れる大地』でネオレアリズモの代表的な存在として活躍しました。

その後、『ベリッシマ』や『夏の嵐』を発表。

アラン・ドロンを主演に据えた『若者たちのすべて』以後は文学作品をもとに

数々の名作を世に送り出しました。

人生の後半には自分の出身である貴族階級を描いた作品が多くなります。

緻密な時代考証、美しい色彩、細部までこだわった演出が特徴。

カンヌ国際映画祭パルムドール、ヴェネツィア国際映画祭 金獅子賞・銀獅子賞・審査員特別賞ほ

か華々しい受賞歴を持つ伝説的な映画監督です。

2023年5月現在、Amazon prime videoでは『郵便配達は二度ベルを鳴らす』が視聴できます。

『ベニスに死す』『異邦人/デジタル復元版』は別途料金(400円)が必要です。

『山猫』 ある貴族の斜陽と新興勢力の台頭

 1963年 イタリア=フランス合作。

原作はジュゼッペ・トマージ・デ・ランペドゥーサ。

出演;バート・ランカスター

   アラン・ドロン

   クラウディア・カルディナーレ

『山猫』のあらすじ

舞台は1860年代のイタリア。

統一前夜、激動の政治的変動のさなか。

シシリーの名門 サリーナ公爵は8人の子供を持つ壮年の男性。

美しい広大な邸宅で一家の家計をやりくりし、子供たちの未来を憂う毎日。

サリーナ公爵は甥のタンクレディという青年を非常にかわいがっています。

明朗活発、野心のあるタンクレディはとても魅力的な美青年。

彼は貴族でありながら革命側につきます。

サリーナ公爵の末娘 コンチェッタは従兄弟であるタンクレディとの結婚を望んでいますが、

公爵はタンクレディの将来のために金持ちの娘と結ばれた方がよいと思っています。

なぜなら公爵家とはいえ、子だくさんの家庭。

資産は等分に分配されます。

末娘コンチェッタの財産は1/8以下になるからです。

ある時、舞踏会に村長の娘アンジェリカが招待されます。

輝くような美貌、余裕のある資金で磨き上げられた教養、快活さ―。

タンクレディとアンジェリカは恋に落ち、結婚することとなります。

大きな時代の波の中、衰退してゆく貴族階級と台頭する市民たち。

新しい時代の到来を若い二人に、

滅びゆく時代をサリーナ公爵に代表させた文芸大作です。

『山猫』のみどころ

 バート・ランカスター演じるサリーナ公爵の重厚な演技と

アラン・ドロンのタンクレディ、アンジェリカを演じたクラウディア・カルディナーレの美貌が

まぶしい作品。

 貴族が書いた小説を貴族の監督が制作・撮影というのはとても珍しいですね。

実際に貴族が持っていた調度品を使い、貴族を出演させた舞踏会のシーンは圧巻。

上流階級の日常が説得力を持って色彩豊かに描かれています。

「山猫」というタイトルはサリーナ公爵家の紋章から来ています。

衣装や舞台装置もさることながらキャスティングが素晴らしいです。

クラウディア・カルディナーレの演じたアンジェリカは教育は受けているものの時々、

庶民の地金を表す活発な女性。

パーティーでタンクレディが披露した下品な冗談に大笑いするシーンは見事。

観て数年たっても強烈な印象を残します。

絢爛豪華で、ぜいたくな映画です。

『地獄に堕ちた勇者ども』 退廃と青年の孤独

1969年 イタリア制作。

『地獄に堕ちた勇者ども』のあらすじ

ヴィスコンティのドイツ3部作の1。

 1933年、ドイツでナチスが台頭するきな臭い時代。

製鉄王ヨアヒム・フォン・エッセンベック男爵一族の誕生日の席で、

男爵の孫にあたるマーティンが女装をして歌を披露します。

その当時 有名だった映画『嘆きの天使』(1930年 ドイツ制作)のヒロイン ローラ・ローラ

を演じたマレーネ・ディートリッヒのコピーです。

あまりのいかがわしさに一同は唖然、男爵は顔をしかめますが、

マーティンの母親ソフィは大笑いしています。

それもそのはず。ソフィは息子マーティンには全く関心がなく、

自分は愛人である総支配人フリードリヒに夢中だからです。

しかし、フリードリヒには野心があって―。

 ひっ迫する世界情勢、野心と裏切り、繰り返される形勢の逆転。

 狂乱の時代、ナチスに翻弄され、失墜する一族を描いた大作。

『地獄に堕ちた勇者ども』のみどころ

ヘルムート・バーガーが演じたマーティンのいかがわしさと妖艶さ、

フリードリヒを演じたダーク・ボガードの存在感が記憶に残ります。

ヘルムート・バーガーのマレーネ・ディートリッヒの物まねはあまりにも有名。

親族の集まる誕生日パーティーでキャバレーの踊子に扮するマーティン。

マーティンの異常さを端的に表したシーンで見事としかいいようがありません。

退廃的なムードが強いですが、ヴィスコンティの上手さが際立つ作品。

ベルナルド・ベルトルッチの『暗殺の森』も同じですが、

上流階級の孤独な子息が全体主義に流されていくさまが痛々しく描かれています。

三島由紀夫が激賞したことで有名な映画です。

人の心はミステリー 『熊座の淡き星影』

1965年 イタリア制作。モノクロ。タイトルは「くまざのあわきほしかげ」と読みます。

DVDの裏には

「現代のエレクトラ伝説 名門家族の姉弟に隠された過去…ヴィスコンティ唯一のミステリー」

という言葉があります。

この映画をミステリーと呼ぶかどうかは意見が分かれるところ。

ギリシア神話のエレクトラとオレステス姉弟から想を得て作られた映画です。

ちょろ
ちょろ

エレクトラとオレステスの物語はギリシア悲劇の題材になっています。

エレクトラとオレステスは英雄アガメムノンの子供たち。

トロイア戦争、船出の際に自分の娘イーピゲネイアを生贄にしたアガメムノン。

アガメムノンの妻 クリュタイムネストラはその恨みから戦争から帰還した彼を殺害します。

すると、父親を殺されたエレクトラとオレステスが母親に対して仇討。

ギリシア神話ではその後も悲劇の連鎖が起こるのですが、ここでは割愛します。

『熊座の淡き星影』のあらすじ

 新婚の夫妻 アンドリューとサンドラ。

アメリカ人男性とイタリア人女性のカップルです。

明るく美しいサンドラがパーティーの席であるピアノ曲を聴いて豹変します。

彼らは新生活のためにニューヨークへ向かう途中。

サンドラの故郷であるエトルリアの都市ヴォルテッラに立ち寄ることにします。

実はサンドラはヴォルテッラでは名家の令嬢。

今は亡き父親はユダヤ人の科学者でした。

アンドリューがサンドラの実家に入るのは初めてのこと。

迷路のような広大な屋敷に古くからいる召使の女性がいます。

すると彼女はサンドラの弟ジャンニが実家に来るといいます。

サンドラとアンドリューの結婚式にも出席しなかった彼がなぜ?

弟の登場によってサンドラのつらい過去が明らかになります。

実の父はナチスによって命を奪われ、ピアニストの母親はほかの男性と再婚。

孤独な姉と弟は、周囲から異常に見えるほどお互いにのめり込んでいきます。

『熊座の淡き星影』のみどころ

 劇中、流れる音楽セザール・フランクの「前奏曲コラールとフーガ」が効果的に使われています。

モノクロですが、サンドラを演じたクラウディア・カルディナーレと

ジャンニを演じたジャン・ソレルの美貌が際立つ映画。

滅びゆく古代の都で、宿命を持つ名家のきょうだいが、、、という設定は今でも繰り返し

使われるテーマ。

サンドラとジャンニの子供時代がとてもリアルに語られています。

ヴィスコンティ映画の中では小品で、日本での公開は1982年と遅いです。

タイトルの「熊座の淡き星影」はレオパルディの詩の一節。

「熊座の淡き星影よ/わたしにはとても信じられない/父の庭園の上にきらめくお前たちに/

こうして再び会えるとは」

映画『熊座の淡き星影』ジャンニの暗唱より

まるでサンドラとジャンニが父親の胸像が立つ庭で再会するシーンのためにあるような詩ですね。

不幸にして子供時代を失ったふたりの姉弟。

結束と亀裂が哀しい映画です。

こぼれ話

 ●『山猫』の原作は岩波文庫で出版されていたことがあります。

これを読むと、ヴィスコンティが原作者に対してどれほど敬意を持って映画化に臨んだかがわかり

ます。

冒頭のシーンで公爵の犬が出てきますが、原作も同じなんです。

コンチェッタとタンクレディの恋愛部分(相思相愛だったのに行き違いで結ばれなかった)など

小さな変更点はあります。

映画は2時間足らずでまとめなければなりませんからね。

また、原作はサリーナ公爵の死後も描かれますが、映画では衰退を匂わせるのみ

 ●ヴィスコンティ監督は美的センスのみならず、俳優の撮り方が非常にうまい人でした。

ですから、ジャン・ソレル、ヘルムート・バーガーなど

ヴィスコンティ作品で華々しい存在感を誇った俳優でも

ほかの映画に出るとパッとしないということもありました。

「ヴィスコンティに下駄をはかせてもらっている」―。

日本では彼らのことをこう表現する評論家がいたほどです。

ジャン・ソレルはフランス映画『昼顔』(1967)でカトリーヌ・ドヌーヴの夫役を演じましたし、

名作『ジャッカルの日』(1973)にも出演しています。

が、ジャンニのような強烈な印象は残しませんでしたね。

夜の庭に立つジャンニは、そこにいるだけで旧家の軟弱な子弟に見えたのですが。

ヘルムート・バーガーはドイツ三部作の『ルードヴィヒ』(1971)で主演します。

が、その後はパッとしませんでした。

のちにフランシス・コッポラ監督の名作『ゴッドファーザー パートⅢ」で

銀行家として出演していましたが、まったく気づきませんでした。

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コッポラ監督のコメンタリー再生で

「彼が悪役を演じると説得力あるよね〜」と言っていたのであわてて巻き戻し再生しました。

あまりの変貌ぶりに時の流れの残酷さを感じましたね。

若き俳優たちの一瞬のきらめきをフィルムに残した―。

ヴィスコンティはあまりに偉大でした。

●日本を代表する演出家 故 蜷川幸雄。

彼はよほどヴィスコンティに愛着があったのか、ヴィスコンティが手がけたものと同じ作品を演出しています。

『オレステス』は藤原竜也主演で演出していますし、『あわれ彼女は娼婦』は三上博史・深津絵里で舞台にかけました。

『あわれ彼女は娼婦』はイギリスの劇作家ジョージ・フォードの作品。

ヴィスコンティはアラン・ドロン、ロミー・シュナイダーを共演させています。

ヴィスコンティは映画では非常に厳しい監督でしたが、舞台では俳優を自由にさせたそうですよ。

ヴィスコンティ作品は現在(2023年6月)、Amazon prime videoで以下のものが視聴可能です。

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』。

『ベニスに死す』『異邦人/デジタル復元版』は別途料金が必要。

ヴィスコンティの『白夜』『山猫』『ベニスに死す』『ルートヴィヒ』『熊座の淡き星影』は

お住いの自治体図書館にあるかもしれません。

探してみてください。

お付き合いいただきありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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