『太陽がいっぱい』あらすじとリメイク版との違い【パトリシア・ハイスミス原作】

海に浮かぶボート 読書

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フランス映画の巨匠 ルネ・クレマン。(1913〜1996)

ドキュメンタリー映画出身で様々なジャンルの作品を手がけました。

代表作は『海の牙』『禁じられた遊び』など。

でもアラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』は最高傑作と言われています。

制作年1960年
原題PLEIN SOLEIL
制作国フランス=イタリア
監督ルネ・クレマン
音楽ニノ・ロータ
主演アラン・ドロン
上映時間117分
  

富豪の一人息子 フィリップ・グリーンリーフをモーリス・ロネ(『死刑台のエレベーター』)、彼の可憐な婚約者マルジュをマリー・ラフォレが演じています。

原作はパトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』(『リプリー』という訳もあります)

原作の原題;『The Talented Mr.Ripley』(才能あるリプリー氏)

この記事では映画『太陽がいっぱい』のあらすじと1999年のリメイク『リプリー』や原作について

書いてみたいと思います。

もず
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映画と原作はおどろくほど違います。

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 映画『太陽がいっぱい』のあらすじ

 アメリカの貧しい青年 トム・リプリーは富豪グリーンリーフ氏から依頼を受けます。

渡欧したまま帰ってこない息子フィリップを連れ帰ってほしいというのです。

トムはイタリアはナポリの南 モンジベロに渡り、フィリップと会います。

何とか役目を果たしたい―。

トムはフィリップのご機嫌を取り、言われるがまま雑用をこなす毎日。

ですが、フィリップ・グリーンリーフはぶらぶらと遊び歩き、トムの願いを聞き入れません。

美しくまじめな恋人マルジュがいても、街で見知らぬ女性とふざけるフィリップ。

母国では生活に追われているトム。

今はフィリップのお金で、周囲から見ればのんきに暮らしています。

しかし、グリーンリーフ氏からお礼をもらわなければ帰国後は苦しい生活が待っています。

トムがフィリップの境遇をうらやむのも無理はありません。

ある日、フィリップの洋服を着て、彼の真似をしているところを本人に見つかってしまいます。

気まずくなるふたり。

フィリップはますますトムにつらく当たり、マルジュと3人で出かけたヨット旅行中、

トムを一人でボートに乗せ流してしまいます。

夏の海の上、照り付ける太陽。

背中に大やけどを負ったトム。

彼の中で羨望が殺意に変わり始めます。

フィリップを亡き者にし、彼の財産と恋人を横取りする。

トムの計画が実行に移される時が訪れました―。

マルジュがヨットを降りた後、

トムはフィリップを手にかけ、フィリップの財産を好きに使おうとしますが…。

 美しい地中海の風景、青い海にニーノ・ロータの哀愁あふれる音楽。

冴えわたる美貌のアラン・ドロンが

三角関係の嫉妬から完全犯罪を計画する若者を演じています。

陰のある容姿がこの役にぴったりです。

アラン・ドロン演じるトムがフィリップのサインを練習するシーンは

あまりにも有名。

マルジュを演じたマリー・ラフォレの清純無垢なかわいらしさと

フィリップを演じたモーリス・ロネの放蕩息子ぶり、落差があって印象的でした。

 完全犯罪が成功したかと思いきや、ラストでひっくり返されるヨットのくだり。

映画史に残る名場面です。

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1999年 リメイク『リプリー』は原作に忠実?

 『太陽がいっぱい』から39年経った1999年、リメイク版が作られました。

その名も『リプリー』。

原題はハイスミスの原作と同じ『The Talented Mr.Ripley』です。

制作年1999年
原題The Talented Mr.Ripley
制作国アメリカ
監督アンソニー・ミンゲラ
音楽ガブリエル・ヤレド
主演マット・デイモン
上映時間140分
  

出演はディッキー・グリーンリーフをジュード・ロウ、マージ・シャーウッドをグウィネス・バルトロー。

そうそうたる顔ぶれですね。

公開された当時、話題になりました。

もず
もず

なかなかの豪華キャストです。

登場人物の名前も原作通り。

『太陽がいっぱい』は

リチャード・グリーンリーフ → フィリップ・グリーンリーフ

マージ・シャーウッド → マルジュ

と変更されていました。

監督は原作に忠実に作ることをこだわり、1950年代の時代考証を徹底的に行って撮影に臨んだそうです。

その努力が実って第72回アカデミー賞で美術賞、衣装デザイン賞にノミネートされています。

冒頭のトムがグリーンリーフ氏に依頼を受けるシーンから小説の見事な再現。

トムが客船でイタリアへ行くところも同様です。

中盤のボートのシーンなど『太陽がいっぱい』よりも原作に近くあろうとする努力が垣間見られました。

『太陽がいっぱい』は原作のボートをヨットに変更しています。

また、小説では同性愛的な表現が濃厚です。

これに関しても『リプリー』では考慮された演出がなされています。

もず
もず

『リプリー』公開当時、原作を知らない知人が「えっ、こんな話なの?」と驚いていました。

 ただ、ラストは『太陽がいっぱい』と同じく完全犯罪が失敗に終わる予兆で

幕を閉じます。

これは中途半端ですね。

監督の意図が見えなかったです。

そもそも、ルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』がリメイクされると聞いたとき、

パトリシア・ハイスミス ファンの多くはこう思ったはず。

「『太陽はいっぱい』は間違いなく名画だけど、ハイスミスは怒っていたからね。

今度こそ、捕まらないトム・リプリーが観られるのかな?」と。

そうです。

小説ではトム・リプリーは完全犯罪を成し遂げます。

ラストの変更に一部の批評家と原作者は批判的だったんです。

原作者の意図を真っ向から否定するラスト。

ハイスミスが気分を害しても無理はないです。

その点、『リプリー』は竜頭蛇尾(りゅうとうだび)。

最初だけ勢いがよくて後に行くとふるわなくなる、の典型。

被害者となるリチャード・グリーンリーフを意地悪く映画いているのも前作と同じです。

(程度は違いますが)

小説では気の弱い好青年なのです。

トムはのちのち、どうしてあんなにいい人間を手にかけてしまったんだろうと自分でも首をひねります。

このあたり、原作はとても複雑ですね。

全体的に見て、映画の出来としては『太陽がいっぱい』に軍配が上がりますね。

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ハイスミスの原作 トム・リプリーのその後は?

  トム・リプリーはパトリシア・ハイスミス唯一のシリーズ物の主人公。

  1. 1955年 『The Talented Mr.Ripley』
  2. 1970年 『Ripley Under Ground』
  3. 1974年 『Ripley’s Game』
  4. 1980年 『The Boy Who Followed Ripley』
  5. 1991年 『Ripley Under Water』

日本語版のタイトルは順番に『贋作』『アメリカの友人』『リプリーをまねた少年』

『死者と踊るリプリー』。

現在、すべて河出文庫から出ています。

電子書籍化されているので絶版の心配がありません。

ハイスミス作品は入手困難なものが多い中、リプリーシリーズだけ健在。

このことからもわかるようにハイスミスの作品中、最も人気があるキャラクターなのです。

第三作『アメリカの友人』は1977年にハリウッドで映画化。

デニス・ホッパーがトム・リプリーを演じています。

トム・リプリーの第1作目以後についてざっと書くと次の通りです。

未読の方、興味のない方は飛ばしてください。

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 グリーンリーフ殺害後、すっかりぜいたくな暮らしになじんだリプリー。

数年後には、パリ郊外の豪邸で妻とお手伝いの女性と暮らしています。

妻 エロイーズは美しくゴージャスな女性。

エロイーズの父親はフランスの大富豪で製薬会社のオーナー。

リプリーたちの住まいはエロイーズの父親が娘に贈った結婚祝いなんですね。

リプリーは結婚前に

グリーンリーフの遺産だけでは足りず、ちょっと危険な「事業」に手を出していました。

その過去が結婚した後も影響してきます。

絵画の贋作事件に巻き込まれ、悪事を犯し警察に尋問されたり、

悪い仲間から危ない依頼を受けたり。

時には家出少年を助けるなど面倒見の良いところがあります。

最終作では後ろ暗い過去がある夫妻の形をとって現われ、リプリーを不安に陥れますが、、。

犯罪を繰り返しつつも、捕まらないトム・リプリー。

壮大なピカレスクロマンと言えるかもしれませんね。

こう考えてみるとハイスミスが母国アメリカを離れヨーロッパへ移住したのも理解できますね。

アメリカは非常に倫理観の厳しい(善悪二元論が好まれる)風土。

今でこそドラマ『デクスター』や『ブラックリスト』など重罪をおかした人物が主人公の作品がたくさんありますが、昔から王道はヒーローもの。

アメリカがどれほど勧善懲悪を好むのか分かりやすい例があります。

ディズニーアニメ。

善と悪がしっかり別れていますよね。

管理人がおもしろかったのは、あるホラー映画のお話。

タイのホラー映画をリメイクしたハリウッド映画『シャッター』(2008)。

映画のコメンタリー再生で監督の落合正幸氏が次のようなことを話していました。

タイ映画では主人公のカップルがドライブ中、ひき逃げする。

これはハリウッド映画ではNG。

遵法精神のない主人公は観客に嫌われる、誰も感情移入してくれない、と。

ハリウッド版ではひき逃げシーンは変更され、ちゃんと事故現場を確認して助けようとする設定に変わっていました。

殺人犯が完全犯罪を成し遂げ、富豪の娘と結婚しフランスで安泰に暮らし…というハイスミスのリプリーシリーズ。

確かにアメリカより多様な価値観を持つヨーロッパでの方が向けがよさそうですね。

ちょろ
ちょろ

清濁併せのむ主人公がアメリカで受け入れられるのはずっと後のお話。

パトリシア・ハイスミスは生まれるのが早すぎましたね。

映画 こぼれ話

 ●『太陽がいっぱい』というと今は亡き淀川長治さんはこの映画を観て、原作の同性愛的な要素を

しっかり感じ取っていたというエピソードが有名ですね。

しかも、トムとフィリップが一緒に船から降りてくるシーンだけでぴんときたそうです。

もう、さすがとしかいいようがありません。

 ●『太陽がいっぱい』の冒頭に当時アラン・ドロンと付き合っていたロミー・シュナイダーがカメオ出演しています。

ふたりの交際からロミーがヴィスコンティ映画に出るようになったのは有名です。

 ●この映画がヒットしたことで原題『The Eclipse』(太陽・月の食)の邦題が『太陽はひとりぼっち』になりました。

二匹目のどじょう狙いです。

邦題あるあるですね。

ちょろ
ちょろ

『氷の微笑』大ヒット後、シャロン・ストーン過去作の邦題に「氷の…」とつけていましたね。

●この映画で成功の階段を駆け上ってしまったアラン・ドロン。

ヴィスコンティ監督から『イノセント』の出演を打診されて断ってしまいます。

舞台では俳優に甘いけれど、映画には非常に厳しかったヴィスコンティ。

もず
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アラン・ドロンはロミー・シュナイダーとともにヴィスコンティが手掛けた舞台『あわれ、彼女は娼婦』に出演しています。

アラン・ドロンが神学生に見えるかはさておき、恋人同士が演じた禁断の愛の物語は美しかっただろうと思います。

ヴィスコンティ映画はプライドの高いスター俳優には辛すぎる現場だった模様です。

『若者のすべて』『山猫』などの名画を作り上げたのに…。

アラン・ドロンは人気に甘え、厳しい演技指導に背を向けてしまいました。

そのため、アラン・ドロンはなかなか演技を評価されずに今日にいたります。

まさに禍福はあざなえる縄の如し。

何が幸いして、何がわざわいするかわかりませんね。

 興味深い話がぎゅーっと詰まっているのがこの時代の映画。

面白いですね。

新作だけでなく古い名画も再上演してほしいところです。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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アラン・ドロンが演じたトム・リプリーを名優デニス・ホッパーが演じて話題になりました。

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