2021年4月15日に配信されたNetflixのドラマ『彼女』。
高校時代に片思いをしていた女性のために、人を殺してしまう女性―。
教唆した方、実行した方。
ふたりの逃亡劇を中心に入り乱れる人間関係を描いた作品です。
単行本が出版されたのが2010年ですので10年以上前の漫画。
真木よう子はこの作品のファンで実写化の時には出演したいと言っていたそうですね。
今回はこちらをご紹介したいと思います。
中村珍『羣青』のあらすじは
高校時代、同級生だったふたりの女性。
一方は一方に恋をしていました。
ふたりの名前は最後にならないと出てこないので、便宜上この記事では以下のように表記します。
A 殺人を教唆した女性
B 実行犯になった女性
普通、こう書くと教唆した側の女性が美人でファムファタルっぽく感じるじゃないですか。
ですが、この漫画は違います。
A そこそこ美人。俊足。家庭が非常に貧しく靴を買うことすらできなかった。
B 外国人の血を引く長身・長髪の美女。同性愛者。実家は不動産を扱うため裕福。本人は獣医師。
↑ この表紙の女性がA
↑ この表紙の女性がB
Aは問題のある男性と結婚します。
その男は浮気者。
しかも日常的にAに暴力をふるい続けるんですね。
Aは気丈な女性ですが、肉体的・精神的に限界が来てしまいます。
そして、自分に好意を抱いている高校時代の同級生Bに夫の殺害を依頼します。
Bは未婚ですが、高校時代から関係を持っている「彼女」がいました。
家族とはうまく行っていますし、仕事もしていてほかのスタッフから信頼も厚い。
人生がすべてうまく行っている人が、好きな人の笑顔を見るためにすべてを捨てる―。
中村珍の『羣青』はこういうストーリーです。
中村珍『羣青』の感想
『テルマ&ルイーズ』が1991年、その映画の元になったアイリーン・ウォーノスを描いた映画『モンスター』が2003年。
殺人をおかした女性ふたりの逃亡劇というのは珍しくはありません。
特にアイリーン・ウォーノスは好意を持っていた女性と自分が生活するための資金作りで罪をおかしていました。
動機部分もやや類似点があります。
ですが、中村珍の『羣青』には他とは違ったアプローチがあります。
中村珍の漫画を読んで一番驚いたのは恵まれた女性が片思いのためにすべてを捨てるところ。
Bは豊かな家庭に育っていて頭もいい。
Aが自分を好きでないことは知っています。
それでも、好きな人がボロボロになっていたらなんとかしたい―。
そんな気持ちで動いてしまいます。

Bがいくら長身とはいえ女性。力では男性に及びません。
気を許してもらうため、BはAの夫と関係を持ちます…。

暴力夫が殺害されて真っ先に疑われるのはA。
Bはそこまで考えて自分が犯人だという痕跡を現場に
残すことまでします。
無償の愛のはずだった―。
現実は甘くなく、実際に手を汚した後は自暴自棄に陥り、Aを罵る場面があるのですが。
Bの家族がAを面と向かって非難するシーンも。
家族一人が犯罪者になることで派生する親族たちの苦悩についても触れられています。
作品が進んでいくにつれ、AとBの過去が明らかになってきます。
すると単純にAばかりを責められない点が出てきます。
Bが好意で行ったことがAを追い詰めていたと分かる、そんなシーンがあります。
単純に加害者・被害者と決めつけられない複雑さ。
絡み合う感情を描いた点がユニークです。
また、Bは高校時代から周囲に同性愛者であることを隠していません。
ですが、不治の病で苦しむ母親のため、「普通」にふるまおうと努力します。
『羣青』はBが「普通」「異性愛者」のふりをするために利用された人の立場にまで光を当てます。
こうした多角的なものの見方が興味深いです。
絵柄もストーリーも独特。
万人受けはしないと思いますが、一度読むと忘れられない作品ですね。
『全裸監督』『愛なき森で叫べ』などショッキングな日本ドラマを配信してきたNetflixらしいチョイスだと思いました。
ちなみに原作『羣青』は電子書籍で全3巻です。
中の絵は表紙より漫画的で読みやすいですよ。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
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