『ファーストラヴ』島本理生 あらすじとドラマ版・映画版比較

椿の花 映画・ドラマの原作本

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島本理生の恋愛ミステリー小説『ファーストラヴ』。

第159回直木賞受賞作です。

2020年2月に単行本が出版され、すぐにNHKでドラマ化。

2021年2月には映画が公開されました。

島本理生原作といえば『ナラタージュ』が2017年に映画化されたばかりです。

若きベテラン、非常に人気のある作家ですね。

原作を読み、ドラマ・映画を鑑賞したのでその概要を書いてみたいと思います。

この記事を読むとこんなことがわかります。

  • 島本理生『ファーストラヴ』のあらすじ
  • NHKドラマは成功したのか?原作との違い
  • 映画版と原作との違い

『ファーストラヴ』のあらすじ

 真壁由紀は臨床心理士。

元報道カメラマンの夫 真壁我聞(まかべがもん)との間には一人息子 正親(まさちか)がいます。

ある日、由紀は出版社からひとつの事件をもとに本を書かないかと依頼されます。

それはアナウンサーを目指して就職活動していた女子大生 聖山環菜(ひじりやま かんな)が父親を刺殺した衝撃的な事件です。

被害者である父親の名は聖山那雄人(ひじりやまなおと)。

画家で美術学校の講師をしていました。

環菜は父親の勤務先へ出向き、女子トイレに呼び出してから犯行に及んだ様子。

逮捕後、警察に「動機はそちらでみつけてください」と言ったことから周囲は困惑。

環菜が容姿端麗なことからマスコミは「美人すぎる殺人者」と書き立てます。

父親から女子アナになることを反対されていたという聖山環菜。

果たしてそんな理由で父親をあやめたのか?

真壁由紀は義理の弟で弁護士の庵野迦葉(あんのかしょう)とともに環菜の内面に迫ります。

 小柄でやせ型、一見するとかよわい小動物のような環菜の不安定な言動、

環菜の母親である昭菜の、娘に厳しすぎる対応、

環菜の元恋人が暴露するあけすけな話。

一貫性のない「聖山環菜」像に翻弄される由紀と迦葉。

事件はまるで迷路のような様相を呈します。

実は真相を究明しようとする由紀と迦葉にも複雑な事情があります。

弁護士 迦葉と由紀の夫 我聞とは本来 いとこの関係。

迦葉の母親が育児放棄したことにより我聞の家庭に引き取られたという過去があります。

また、由紀と迦葉は大学の同窓生。

由紀と迦葉の関には過去に起因した「しこり」があります。

心に傷を負った由紀と迦葉が環菜の魂を救うことができるのか?

果たして、犯行の動機は?

二転三転する事態、人間の裏と表、緊迫した心理サスペンスです。

『ファーストラヴ』2020年NHKのドラマ化は成功したのか?

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 *若干のネタバレを含みます。

未読の方、前知識なしに楽しみたい方はご注意ください。

 NHKでドラマ化されたときは次のようなキャスティングでした。

真壁由紀 真木よう子

庵野迦葉 平岡祐太

真壁我聞 吉沢悠

聖山環菜 上白石萌歌

聖山昭菜 黒木瞳

原作では真壁由紀がメイク中、鏡に映った自分の顔を見て

「悪くもないが、特別に美人ということもない。」と言っています。

小説の前半で、女性を外見でしか見ない男性アナウンサーに無視されるシーンがあるので謙遜ではなさそう。

雰囲気美人といったところでしょうか。

真木よう子では美人すぎると思いますね。

他のキャストはイメージをつかんだうまい選択。

環菜役の上白石萌歌は観ているうちにイメージに合っていきますし、

母親役の黒木瞳は自分勝手で神経質なキャラクターを体現していました。

不協和音のようなキーキー声がたまりません。

大筋では原作に忠実ですが、長編小説を119分にまとめるためかなり登場人物がカットされています。

環菜の友人 臼井香子(うすいきょうこ)

由紀の母親

迦葉の弁護士事務所 事務員で親しい関係にある小山ゆかり(一瞬だけ登場)

弁護士の北野先生

聖山那雄人の両親

聖山那雄人のデッサン会に集まっていた面々などです。

総じて被害者である聖山那雄人に関する部分が大幅カットされていますね。

彼の人となり、環菜に対する異常なしつけ、那雄人の両親の事なかれ主義と息子に対する腫れ物に

触るかのような態度。

また、印象的な部分としては環菜が迦葉の女性とのかかわり方に不満をぶつけるシーンがカットされていました。

頼りなげに見えて、実は観察眼に優れ、毒舌な環菜。

意外な一面が発現する面白い場面なのですが、残念です。

NHKドラマ版と原作との違い
●由紀のトラウマによる乱れた生活・大学1年留年 →ドラマではカット
●由紀と我聞の出会い 原作では在学中 → ドラマでは卒業後
●迦葉の母親と由紀の共通点 極端なやせ型体形 → ドラマでは肩のあざ
●我聞の人物像 完璧な夫 → 原作に比べるとやや普通の男性

『ファーストラヴ』が出版するはずだった由紀の本のタイトル名というのもドラマオリジナルですね。

全体として原作の人間臭い部分や負の部分を薄めてきれいにまとめた印象です。

虐待という重苦しいテーマの作品をお茶の間向けにクリーンに仕上げていました。

2時間という尺の制約があるにしては優秀な映像化作品だと思いました。

『ファーストラブ』映画版 中村倫也は適役だが…

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 2021年2月11日に封切られた映画『ファーストラヴ』。

真壁由紀 北川景子

庵野迦葉 中村倫也

真壁我聞 窪塚洋介

聖山環菜 芳根京子

聖山昭菜 木村佳乃

こちらもドラマ版同様に主役が美人すぎますが、なかなか凝ったキャスティング。

わき役に演技派をそろえていますね。

特に庵野迦葉役の中村倫也。

原作では目の大きさが左右で微妙に違う、崩れた印象のイケメンなんです。

これはぴったりな配役だと思いました。

真壁由紀を演じる北川景子も非常にやせているところが原作に近いです。

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以下、感想です。

長い原作を2時間でまとめるのでかなり登場人物を削ってあります。

由紀と我聞の子供、環菜の友人、迦葉のビジネスパートナー、出版社の人達など。

登場人物はすべて原作よりも怒りっぽく、思っていることを口にします。

我聞の父親が写真館を経営していた、など細かい設定変更もあり。

全般的に原作に忠実なのはNHKドラマ、独自のセリフや設定を施しているのが映画版という印象。

キーパーソンの環菜が原作のような「小動物」を思わせる可憐な存在ではなくエキセントリックにとらえられていることにやや違和感。

予告編を観る限り、そういう演出が「目玉」だったのかな、と。

迦葉役の中村倫也はドラマ版より原作に近いイメージでしたが、上回っているのはその一点のみでした。

この『ファーストラヴ』という小説は、美人女子大生の父親刺殺、三角関係などテレビ・映画業界が飛びつきそうな要素がたくさんあるものの映像化は難しいんだな、と痛感しましたね。

幼い頃から異性関係に対してトラウマを持っていた由紀と迦葉が若さゆえに犯したあやまち。

残酷な言葉と行動。

「たしかに私と迦葉は誰にも言っていない事情があります。でも、それはむしろ恋愛じゃなかったから起きたことです。今も後悔しています。あんなふうにお互いに深入りしすぎたことを」

(島本理生『ファーストラヴ』)

これは作中、由紀がある人にふたりの関係を語る場面です。

危ういバランスの上にある関係。

一目でお互いの中にある「孤独」「親への嫌悪感」に共鳴し、きょうだいのように連れ添って歩いた大学時代。

ふたりして不器用で、異性とは「性」を介してしか付き合えなかったために起こる事件と衝突。

映像で表現するのは至難の業ですよね。

ドラマ同様、映画版も「けんか別れした恋人同士」に見えました。

残念。

映画版も由紀の、ショックによる留年と乱脈な生活を省いてありました。

ドラマ版でカットされた部分は映画版でも描かれることなく終了。

…なんのための再映像化???と思いましたね。

由紀が成人式の日、母親から衝撃の告白をされるシーンは再現されていました。

あれは北川景子に振袖を着せたかっただけでは?

ダッシュボードから写真が…も過剰で整合性のない演出に見えました。

名監督アルフレッド・ヒッチコックはどんなにおもしろく劇的な演出を考えだしても、整合性がなければ採用しなかったのだとか。

昔の映像作家はストイックでしたね。

焼き肉屋で迦葉が由紀の髪をカットするシーン(原作ではちゃんと美容室に連れていきます)も退きました。

髪の毛は雑菌が多くて不潔ですし、お店の人に迷惑では??

骨付きカルビをカットするはさみですよ??

お店によっては冷麺もカットするんですけど???

そして激高しやすい臨床心理士と弁護士、もっとも冷静でなんでもお見通しなのが報道カメラマンって変ですね。

もず
もず

怒りっぽい北川景子のイメージは『セーラームーン』を引きずりすぎでは?

その他 こぼれ話

 原作のお話。

由紀と迦葉が仲良しだった頃、我聞について語るシーンがあります。

ある古い映画に出てくる、とてもやせた女性がタイプ。

体にぴったりとした黒いドレスを着ていて賢く、陰がある。

由紀は兄貴の好みだよ、と。

こんなやりとりがあったので、けんか別れの末に由紀が我聞に近づいたのは

かなり打算的な印象を受けますね。

しかも、当時の由紀はお金がないのにタイトな黒いドレスを着て

我聞の個展に行っています。

おい、狙いすぎだろ!!と言われても仕方ない状況。

狙いが当たりすぎて交際に発展してからは我聞の人柄にほれ込み、

罪悪感にさいなまれることとなります。

このあたりの女性心理がとてもリアル。

ドラマ版・映画版ともにこの部分をカットしているのは「綺麗ごと」に作りすぎ。

読後、このくだりが頭に残っていて

我聞が好きな映画はなんだろう?と思っていました。

気になりますよね。

ヒロインのイメージを思い浮かべるときに影響しますし。

いくつか浮かびますよね。

最初はケリー・リンチあたりを想像しました。

『ドラッグストア・カウボーイ』なんていかにも写真家が好きそうじゃないですか。(笑)

ですが、もしかしたらストレートに『ティファニーで朝食を』のオードリー・ペップバーンかな?

と思い直しました。

『ティファニーで朝食を』ヒロインのホリー・ゴライトリーは、幼い時に子持ち男性と結婚していたという設定があるんです。

ホリーと兄は孤児。

しかも兄にはハンディキャップがあるので、保護者を得るのは死活問題。

自分が子供と言ってもいい時期に、請われるまま年上の男性と結婚してしまいます。

その家庭から逃げ出してニューヨークに来るのです。

ホリーは物事にこだわらないさっぱりした女性として描かれていますが、

これは強烈なエピソード。

 子供時代を奪われたという点で聖山環菜や由紀の設定とかぶるな、と思いました。

オードリー・ヘップバーン自身も華奢な外見とはうらはらに壮絶な人生を送ったタフな女優。

ボランティア活動にいそしんだことでも有名。

報道写真家である真壁我聞が憧れる存在としてふさわしいですね。

こういう興味を引かれる部分が原作にはたくさんあります。

未読の方にはぜひ、読んでいただきたいですね。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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