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今なおファンの多い推理小説作家 連城三紀彦(1948〜2013)。
愛知県出身の作家です。
1978年に幻影城新人賞を受賞してデビュー。
その後、吉川英治文学賞、直木賞、日本ミステリー文学大賞特別賞などを受賞。
華々しい受賞歴を持っています。
『恋文』が何度も映像化されたり、優れた恋愛小説を書いていたりしたこともあって恋愛小説家の
イメージを持っている方がいらっしゃいます。
が、出発点は推理小説。
特に恋愛感情と推理小説の融合、絡み合った人間関係を描くのが得意な方でした。
繰り返されるどんでん返し。
ラストまでたるまずに引っ張るサスペンスの力。
どんな突飛な動機でも説得力を持たせる世界観の構築と文章の巧みさ、余韻と詩情。
これらは「連城マジック」と呼ばれていました。
今回はそんな連城三紀彦のおすすめ作品をご紹介したいと思います。
名作『戻り川心中』で大正浪漫に酔う!
『戻り川心中』(光文社文庫)¥533+税
短編集です。
表題作「戻り川心中」は日本推理作家協会賞を受賞しています。
大正歌壇にその名をとどろかせた苑田岳葉。(そのだがくよう)
技巧派で豊富な語彙を操る天才肌の歌人でした。
彼は2度も心中未遂を起こし、2人の若い女性を他界させてしまいました。
そのいきさつを詠んだ和歌を残し、三十四歳で自害してしまいます。
滅びの美学、蘇生。
端正な容姿であった苑田岳葉、退廃的な作品とイメージで夭折の天才とされています。
そんな苑田の友人が、彼の生涯について書こうと思い立ち調査を始めますが―。
苑田が本当に愛していたのは誰?
3度咲いた花菖蒲の謎は?
大正浪漫の雰囲気が満ちた、格調高い短編ですが、
その「動機」が非常に恐ろしいです。
天才歌人とその周囲にいた女性たち。
女性の可憐さとはかなさが哀しい名作です。
収録作品は以下の通り。
「藤の香」「桔梗の宿」「桐の棺」「白蓮の寺」「戻り川心中」。
この短編集と『夕萩心中』を合わせて「花葬シリーズ」と呼ばれています。
どの小説にも花が重要な役割を果たしているためです。
今村昌弘『屍人荘の殺人』にも「花葬シリーズ」の名前が出ていましたね。
ちなみに「戻り川心中」は1982年にテレビドラマ、1983年に映画になっています。
ドラマ版は視聴したので感想を書いておきます。
時代設定を現代にし、苑田岳葉は存命。
事件が現在進行形で起こるようになっていました。
出演;田村正和、紺野美沙子ほか。
和服姿で蓬髪の田村正和がなかなか苑田岳葉らしかったです。
昔、某巨大掲示板のミステリ板で「トンデモ動機ランキング」がありました。
必ず、複数の作品が上位に入っていた連城三紀彦。
動機だけ見ると失笑ものでも、実際に小説を読むと説得力と共感できる設定、抒情がありました。
筆力と伏線、世界観を構築する言葉選びを堪能してください。
『黄昏のベルリン』世界を駆け巡る謎と謀略!
『黄昏のベルリン』(文春文庫 ¥800+税)
こちらは打って変わって舞台は世界を駆け巡ります。
リオデジャネイロ、ニューヨーク、東京、パリ、ベルリン。
洋画家 青木優二は、新年早々あるドイツ人女性から驚くべきことを告げられます。
あなたは第二次世界大戦中にユダヤ人の父親と日本人の母親の間に生まれた子供だ、と。
あなたが知っているあなたの生い立ちは偽りだ、というのです。
青木は自分のルーツを探すため、ドイツへと向かいますがそれは国際的謀略に巻き込まれることを
意味しました…。
謎が錯綜する、骨太な推理小説。
連城三紀彦は様々な顔を持ちます。
真宗の僧侶でもありましたし、若い頃にはシナリオライターとしてパリへ遊学しています。
そんな経験から、こうした国際的な小説を描いても絵空事にならない下地が作られていたのでしょう。
1988年 発表当時に週刊文春の傑作ミステリーベスト10で堂々の第一位を獲得しています。
優れたミステリー作家は様々な職業を経験した人が多いです。
日本推理小説界の祖 江戸川乱歩、松本清張、森村誠一、イギリスではクリスチアナ・ブランドなど。
女性という迷宮に迷い込む 『飾り火』(上・下巻)
『飾り火』 (新潮社文庫) 上・下巻
1990年 テレビドラマ化で話題騒然だった『誘惑』。
主題歌は山下達郎の『エンドレスラブ』
出演は篠ひろ子、紺野美沙子、林隆三、吉田栄作、西尾麻里、渡辺えり子ほか。
当時のテレビドラマとしては非常に豪華で手堅いキャスティング。
息もつかせぬ展開で世間の話題をさらっていました。
原作は連城三紀彦の『飾り火』。
茜色の着物、友禅など小道具まで原作に忠実でしたね。
もちろん、原作の方が「底」が深く恐怖が倍増ですが。
藤家家(ふじいえけ)は幸せな4人家族。
ですが、夫の藤家芳行(ふじいえ よしゆき)が主張中、新幹線で若い女性 妙子と出会い関係を持ってしまいます。
彼女は巧みに不倫相手の家庭に入り込み、崩壊へと導こうとします。
しかも、妙子は夫を奪っただけでなく藤家家の長男 雄介や長女 叶美にまで手を伸ばしてきて…。
途中、愛人の存在と策略に気づいた妻 美冴が反撃に出て、というストーリー。
妻と夫の愛人。
この二人が昼ドラのような取っ組み合いではなく、心理戦を仕掛けるところが連城三紀彦作品らしい。
愛人怖い!!!と思っていたら実は、、、、と底があるのも連城ワールド。
長いですが、一気に読ませる心理サスペンスの傑作です。
終盤、金沢の街で芳行と美冴がお互いを探し回る場面があります。
金沢の街は場所によっては細い道が多く、他県民には迷路のようですが、藤家夫妻の心も迷宮。
芳行は女性という迷宮で23年間、迷子になっていたと言えるかもしれません。
テレビドラマはDVDにはなっていませんが、現在はTBSオンデマンドで視聴できます。
ものすごく読み応えのある小説。
どこかのテレビ局が原作に忠実にリメイクしてくれたら、日本のみならず世界でも通用する心理ドラマになると思うのですが…。
(特にフランスで受けそう!)
『飾り火』のネタバレ
今回ご紹介した作品の中で復刻されたり、電子書籍になったりしていない『飾り火』。
ドラマにもなった小説なのに残念です。
現在、古本でしか読むことができません。
ドラマを観ていたけれど、結末を覚えていない、気になるという方のためにネタバレをします。
結末が分かっても原作を読む楽しみは減りません。
それが連城ワールド。
私はドラマの後で小説を読みましたが楽しめましたね。
ネタバレNGの方は飛ばしてくださいませ。
上下巻ある長編小説なのでかなりはしょっています。
その点はご了承下さい。
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幸福な家庭の主(あるじ)、藤家芳行。
出張の帰り、10数年前に一度だけ夜を過ごした女性と再会するため、金沢に向かいます。
新幹線は満席。
車掌と話しているとグリーン席の女性から声がかかります。
「連れが下車したため、私の隣が空いています。よろしかったらどうぞ。」
これがきっかけで藤家は佳沢妙子(よしざわ たえこ)という若い女性と出会います。
妙子は新婚旅行の途中、夫に逃げられたという哀れな身の上。
藤家芳行は財布を無くしたことから、金沢でも妙子に頼ることに。
ひょんな成り行きでふたりは一夜を共にします。
芳行の妻 美冴は43歳。
夫とふたりの子供のために生きる専業主婦。
茜色の着物が似合う、落ち着いた美人です。
趣味は組紐(くみひも)。
長男 雄介は結婚を約束した恋人 石津真佐代がいますし、長女 叶美は生意気ながらかわいい娘。
経済的にも恵まれた4人家族。
幸福で安定した生活を送っていました。
ある日、美冴は組紐教室で若い女性と知り合います。
その女性は言葉巧みに藤家家に入り込み、恋人 村木を叶美の家庭教師にあっせん。
藤家家の人々に取り入ります。
美しく、頭がよくて会話が上手い。
ブティックを経営する、洗練された自立した女性。
美冴の息子 雄介も娘の叶美もそんな彼女に心酔してしまいます。
その若い女性こそ、夫が関係を持った妙子。
妙子は村木に、美冴を誘惑するようにけしかけ、自分は藤家家の長男 雄介とも関係を結びます。
そして、雄介が深入りしたあとに、自分が芳行の愛人であることを知らせたのです―。
美冴もまた何も知らず、妙子に紹介された村木と関係を持ってしまいます。
夫から離婚を切り出され、渋る美冴。
夫は「興信所をやとった」と、美冴と村木がホテルで密会した時の写真を見せます。
これでは美冴は夫の不倫を責められない―。
家庭はめちゃくちゃ。
美冴は妙子が夫の愛人であることに気づき、反撃に出ます。
妙子が以前、美冴に打ち明けていた話から新聞記事を調べます。
実は妙子は藤家家を壊す前に、田口敏雄という男の家庭も壊していました。
妙子は新婚旅行中に夫に逃げられたと言っていましたが、逃げた男こそ田口敏雄だったのです。
そして、田口は自殺。
田口の妻は精神を病み、家庭は崩壊。
このままでは藤家家も田口家の二の舞。
夫も自殺に追い込まれるかもしれない―。
美冴は手始めに自分をだましていた村木を持ち駒にします。
そして妙子に反撃。
妙子からもらった服にわざと針を仕込ませ、自分の体を傷つけて娘の同情をひいたり、
妙子の上得意客を失わせたり。
ある日、妙子と美冴は対決しますが、衝撃の事実が発覚。
実はこの家庭崩壊計画を立てたのは藤家芳行。
新しい生活を始めるにあたり、今まで築いてきた家庭を粉々にしたかったのです!
そして、妙子は芳行を手に入れたいがためにこうどうしていたわけではありませんでした。
最初に芳行にあった時に見た家族写真の中に映る
美冴に執着していたのでした。
妙子のせいで雄介と別れることになった石津真佐代もまた、美冴の存在を強烈に意識していました。
同性から見ると、内面にかかえた「火」が分かるんですね。
やさしく、平凡な専業主婦だと思われていた美冴は、実は復讐のためなら冷酷な計算が出来るしたたかな女性。
美冴自身も、この事実に初めて気が付きます。
芳行と美冴は別居。
美冴はある日、芳行を金沢に呼び出します。
離婚届を渡すためです。
金沢の街で、芳行は美冴を探し回ります。
そして、妻が金沢でもっとも好きな場所で見つけます。
芳行は美冴に、自分が美冴の実像をつかみきれなかったこと、浮気相手の中に美冴を見ていたことを打ち明けます。
美冴から離婚届を受け取った芳行は、金沢の街で10数年前に一度だけ関係を持った女性と電話で話します。
そして、その女性もまた、誰かの妻であったことを知るのでした。
ま と め
『どこまでも殺されて』『人間動物園』『流れ星と遊んだころ』や
『運命の八分休符』、『夜よ鼠たちのために』『宵待草夜情』『夕萩心中』など。
連城三紀彦の作品はそれぞれ魅力があります。
残念なことに絶版が多いですが、古本屋で見かけたらぜひ手に取っていただきたいです。
この人の小説を読んでいると、言葉の持つマジックを再認識しますね。
お付き合いいただきありがとうございました。
少しでも参考にしていただけるとうれしいです。
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