『鉄の門』マーガレット・ミラーあらすじと感想【推理小説】

ミステリー

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今回は1945年に発表された『鉄の門』をご紹介したいと思います。

原題;『THE IRON GATE』

マーガレット・ミラーの詳細については以下の記事をご覧ください。

【推理小説】マーガレット・ミラー『殺す風』あらすじと感想

マーガレット・ミラー『鉄の門』のあらすじ

 45歳になるルシール・モロー。

赤みがかった金髪、長身の女性です。

夫は医者のアンドルー・モロー。

地域では信頼されている、成功した医師です。

ルシールは後妻。

16年前の冬、ルシールの友人 ミルドレッド・モローが公園で惨殺されてしまいます。

幼い子供2人を抱えて残されたアンドルー。

そこに妻の友人であるルシールが嫁ぎました。

モロー家にはアンドルーの妹 イーディス、ミルドレッドとアンドルーの子供マーティンとポリーがいます。

イーディスは兄のことしか頭にない未婚の女性。

義理の子供たちマーティンとポリーはルシールに心を許していません。

表面は和やかですが、家庭内の空気はややぎこちない様子。

 12月5日、ポリーの婚約者 ジャイルズを迎えに行ったアンドルー、マーティン、ポリーの一行。

運悪く列車事故に巻き込まれてしまいます。

幸い、3人にケガはなし。

事故の処理に手を貸すことになるアンドルーとマーティン。

帰宅時間が遅れてしまいます。

ジャイルズを伴って家に着いたのは12時過ぎ。

初対面の挨拶をする一族。

ルシールはジャイルズに既視感を覚えます。

次の日の夕方、ルシールは家から姿を消してしまいます。

引き金になったのはほかの家族が留守にしているとき、ルシール宛てに届いた小箱。

それを開けたとき、ルシールは悲鳴を上げたと召使たちは証言しますが…。

ルシールはなぜ消えたのか?

彼女が家出することになった原因の小箱には何が入っていたのか?

未解決に終わった16年前の殺人事件の犯人は?

家庭内のミステリーながら、手に汗を握る展開です。

マーガレット・ミラー『鉄の門』の感想

 『鉄の門』は三部構成になっています。

それぞれタイトルがついています。

  • 第一部 狩猟
  • 第二部 狐
  • 第三部 猟犬
もず
もず

小説を読み終えるとこのタイトルの意味がわかります。

 非常に神経を使って書きあげられた文章。

再読すると伏線が巧みに張り巡らされているのがわかっておもしろいですね。

マーガレット・ミラーは人間の心理描写に定評がある作家。

『鉄の門』にもその特質はいかんなく発揮されています。

ルシールとは仲の悪い継子ポリー。

ポリーが結婚について家族にとやかく言われたくないともらすとルシールが同感だ、と言うシーンがあります。

ちょろ
ちょろ

そして目をそらすポリー。自分に返ってくる言葉だから。

もず
もず

こういう、皮肉なシーンがたくさんあるよね。

*この先は若干のネタバレを含みます。ご注意ください。

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分別のある大人が家出する発端となる小箱の中身

いったいなんだろう?と引き込まれますよね。

意外なことにすぐにわかります。

ルシールが投げ捨てたものを近所の男の子が拾っていたんですね。

それがなんと、人間の指。

ちょろ
ちょろ

びっくりだけど、これはめずらしくないよね。

もず
もず

コナン・ドイルのホームズ物に似た話があったよね。

『鉄の門』は精神病院が出てきます。

タイトルはそこから来ているんですね。

患者が勝手に出入りできないようにしている、堅固な門。

外界と遮断された世界の象徴です。

『鉄の門』はマーガレット・ミラーの作品中、かなり暗い空気の小説。

ストーリーは12月5日日曜日から始まります。

気になったので何年かネットで調べてみました。

1943年。

第二次世界大戦の真っ最中です。

ポリーの婚約者ジャイルズは将校。

結婚のため休暇をもらっています。

『鉄の門』にはそんなきな臭い現実がところどころ影を落としています。

ちょろ
ちょろ

日本では1943年、上野動物園の動物たちが殺処分。

もず
もず

「かわいそうな象」の元になった出来事があった年ですね。

正直なところ、大きなトリックはありません。

現代のミステリーになれた人には物足りないかもしれません。

ですが、書かれた時代や戦争が作家に与えた影響を考えると興味深いものがあります。

16年前のミルドレッド惨殺事件はミラー作品のなかではかなり野蛮な犯行。

真犯人の人物造形も背筋が寒くなります。

戦争は間違いなく、作品に影を落としています。

こういう作品を読むと時代と小説は切り離せないな、と思いますね。

 事件の結末も暗澹としています。

が、ところどころにくすっと笑いたくなるシーンもあります。

マーガレット・ミラーは使用人の女性を描写するのが上手いですね。

『鉄の門』ではモロー家の使用人としてアニーとデラが出てきます。

ふたりのとりとめもない会話が目に浮かぶよう。

もし、宝石を手に入れたらどうする?とか。

ちょろ
ちょろ

私たちが家族や友人と「三億円あったら何に使う?」と話すような感覚。

宝くじを買ってもいないのに。(笑)

もず
もず

書かれた当時を生きる普通の女性たちとして描かれているよね。

 アガサ・クリスティは好きな作家ですが、彼女が描く使用人っていつも同じじゃないですか。

名前はグラディスで知恵が足りなくて…。

ミラーは「使用人」とひとくくりにしないんですよね。

人間をしっかり観察して描いている証だと思いますね。

こういうところ、マーガレット・ミラーの美点だと思っています。

 推理小説といってもトリックや解決編のカタルシスだけじゃない。

いろいろな楽しみ方がありますね。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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