『ぼくのエリ 200歳の少女』あらすじと感想 【映画】

映画と原作

 2008年制作。

2010年に日本で公開されたスウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』。

世界で60もの映画賞を受賞した名作です。

監督はトーマス・アルフレッドソン。

原題;『Lat den ratte komma in』

英語原題;『Let the Right One In』

原作はヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト『MORSE‐モールス‐』。

撮影 ホイテ・ヴァン・ホイテマ

キャスト オスカー / カーレ・ヘーデブラント

     エリ / リーナ・レアンデション

ジャンルとしてはダークファンタジー・ホラーに該当すると思います。

映像と音楽が非常に美しく、キャスティングが優れた映画です。

今回はこの作品をご紹介したいと思います。

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『ぼくのエリ 200歳の少女』のあらすじ

  時は1980年代。

孤独な12歳の少年 オスカー。

スウェーデンの首都 ストックホルムの郊外にあるアパートで、母親と暮らしています。

父親とは別居。

気が弱くオカルト好きのオスカーは学校ではいじめられっ子。

そのため帰宅するとうっぷんを晴らします。

集合住宅の中庭で木を刺し、いじめっ子の真似をする日々。

ある雪の降る夜、オスカーはアパートの中庭で一人の少女と出会います。

前の晩にオスカーの隣に引っ越してきた彼女。

中年男性と一緒のところをオスカーは窓から見ていました。

ウェーブのある黒髪。

エキゾチックな黒い瞳でオスカーと同じ年頃です。

雪の中、半袖のシャツにコットンパンツでしかも裸足。

表情にとぼしい彼女。

彼女は「悪いけど、友達にはなれない」とオスカーに言い放ちます。

この子の名前はエリ。

最初は冷たく見えたエリですが、

オスカーがルービックキューブを貸すなどして徐々に距離を縮めます。

二人はアパートの壁越しにモールス信号で連絡を取り合うことにしました。

学校ではひとりぼっちですが、アパートに帰ればエリがいる―。

オスカーはいじめにじっと耐えます。

エリはそんなオスカーを励まします。

「いじめに立ち向かって」。

オスカーは体を鍛え始めることに。

親しくなる二人。

強くなろうとする少年。

しかし、エリと中年男性が越してきてから街は異常な事件が多発して…。

寂しい少年と異形の者の愛と交流を描く作品です。

『ぼくのエリ』原作『MORES‐モールス‐』との違い

 映画と原作のネタバレを含みます。

未読の方、映画を鑑賞されていない方は飛ばしてください。

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 原作は上下巻あります。

そのため、かなりカットされた部分や変更点があります。

まず、オスカー少年の外見。

映画でもオスカーのお菓子好きは描写されていました。

買い食いをするため原作ではぽっちゃり。

なので、いじめっ子に「ブタ」と言われています。

ちょろ
ちょろ

映画版ではなオスカー役の子がなぜブタと言われているかわかりません。

もず
もず

金髪の、華奢な美少年ですもんね。

父親はアルコール中毒のため、オスカーの母親と離婚した様子。

親権は母親が持ち、父親には定期的に会いに行くことになっています。

エリと暮らしているホーカンは元高校教師。

ある性癖が職場でばれて解雇された過去を持ちます。

ちょろ
ちょろ

小児●愛者であることが露見。職を追われます。

途方に暮れていたところをエリに救われたんですね。

原作にはかなりいろいろな意味でグロテスクな描写が多いのですが、映画ではさらっとスルーされています。

原作小説はもっと同性愛色が強いのです。

エリは吸血鬼。

そして少女ではなく200年近く前に去勢された少年。

(映倫カットでぼかしが入れられた日本ではわかりにくかったですが…)

これは原作の方が早い段階でオスカーの知るところとなります。

もず
もず

ストレートなオスカー少年。エリのふるまいに悩む場面も。

小説ではエリの回想シーンがあり、吸血鬼に「感染」してしまった顛末が語られます。

この部分がおどろおどろしいです。

ちょろ
ちょろ

エリザベート・バートリーやジル・ド・レを思い出させますね。

 友達のいない少年が初めて恋をした相手がヴァンパイアで男の子。

それでも、エリと一緒に歩むことを選ぶオスカーの決断が胸に迫る映画です。

映画の原題 『Lat den ratte komma in』*本当はスウェーデン語なので発音記号が入ります。

これは吸血鬼は招かれなければその家に入ることはできないというルールをふまえた言葉。

「正しきものを招き入れよ」。

意味深な言葉です。

ハリウッド版『モールス』がいまいちだったわけ

 『ぼくのエリ』は2010年にハリウッドリメイクされています。

マット・リーヴス監督、オーウェン / コディ・スミット=マクフィー

           アビー  / クロエ・グレース・モレッツ

『キック・アス』で人気絶頂だったクロエ・グレース・モレッツ主演。

非常に高評価を得ていました。

舞台をスウェーデンからアメリカに移したり、エリの名前をアビーに変えたり、いろいろな変更点があります。

『ぼくのエリ』より原作に忠実な部分があるかと思いきや、重要な部分が改変されていて戸惑いました。

一番の違いはアビーは吸血鬼の女の子というところ。

また、一緒にいた初老の男性は子供の頃からずっとアビーと一緒にいたという設定。

アビーは年を取らないで、彼だけが老けていくということを表現したかったのでしょうが…。

そもそも、原作と映画『ぼくのエリ』の主役の名前「エリ」には深い意味があります。

原作でも触れられるのですが「神」を意味するんですね。

ちょろ
ちょろ

原作ではボーカンが病室から飛び降りるときにエリの名前を呼ぶんです。

もず
もず

それを聞いていた刑事が神に祈ったのかと勘違いするシーンがあります。

聖書に出てくるのでご存じの方が多いでしょう。

「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」(マタイによる福音書第27章46節)

「わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか」アラム語です。

そしてエリの昔の名前Elias(イライアス)を短くしたものでもあります。

ホーカンやオスカーがエリに対して抱く愛やおそれ、忠誠心を端的に表していますね。

その名前が変えられたというのは大きなことだと思います。

 アビーが「少女」というのも女性から見るとひっかかるんですよね。

オーウェン少年は見かけだけ少女の(中身200歳の!)吸血鬼と一緒に歩む…。

悪い老婆に騙された哀れな少年に見えてしまうんですよ。

原作と『ぼくのエリ』ではすべてを知ったうえでエリと共に歩むオスカー少年の「孤独」が胸に迫るのですが。

わたしには有名な子役スターを起用しただけのリメイクに見えました。

クロエ・グレース・モレッツは好きなんですけどね。

ちょろ
ちょろ

クロエ・グレース・モレッツは清潔感のある役の方が似合うと思う。

映画 こぼれ話

 エリを演じたリーナ・レアンデション。

彼女の声が高かったため、監督は声を別の人に吹き替えさせています。

原作の「エリ=本当は少年」をきっちり意識した仕事ぶり。

撮影のためにわざわざ1980年代に建てられたアパートを探してきたり、脚本は原作者を起用したり、細部までこだわって作られています。

また、特筆すべきは画面の美しさ。

構図がきれいなんですよ。

西洋絵画をしっかり勉強した人が撮る構図。

鏡やガラス窓を使ったアングル。秀逸です。

この本や同じ著者の『名画を見る眼』(岩波新書)を読んで映画を観るとおもしろいです。

映画カメラマンがどれだけ古典的な作品からインスピレーションを得ているのかがわかります。

『ぼくのエリ』は撮影監督がオランダ人のホイテ・ヴァン・ホイテマということで納得。

オランダにはすぐれた画家がたくさんいますからね。

同じトーマス・アルフレッドソン監督の『裏切りのサーカス』でも一緒に仕事をしています。

こちらでは全米撮影監督協会賞にノミネートされたそうです。

ヨーロッパの映画監督は「絵」が美しい―。

ルネ・クレマンしかり、ベルナルド・ベルトルッチしかり。

このあたり、堪能していただきたいです。

日本では『ぼくのエリ』は映倫の是非、ぼかしの要不要、邦題のいい加減さ、凄惨なシーンにばかり目が向けられています。

ですが、実際はリリカルな部分もあります。

エリがオスカーに贈った置手紙。

シェイクスピア『ロミオとジュリエット』の一節です。

愛する人のそばにいるか、身の安全のために離れるかという選択を迫られる―。

確かにエリとオスカーの状況にぴったりですね。

ヴァンパイアものの傑作は古い映画に多く、近年はドラマ、映画ともに商業的な成功は収めるもののご都合主義な作品が多かったです。

『ぼくのエリ』はそんな中、永遠の命を持つ者の悲哀、孤独をしっかりと描いている作品。

漫画家 荒木飛呂彦先生がホラー映画の評論集に加えたかった(締め切りの関係でカットされた)とおっしゃっている傑作。

もっと正当な評価を受けてほしい映画です。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

参考にしていただけるとうれしいです。

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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