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日本が世界に誇るノーベル文学賞作家 川端康成。(1899〜1972)
映画化された『伊豆の踊子』『雪国』があまりにも有名ですね。
若い頃は『機械』の横光利一らとともに新感覚派と呼ばれていました。
日本的で繊細な感性、余韻を残す美しい文章や自然描写に優れた作家です。
ノーベル文学賞作家なので、敬遠する方がいらっしゃるかもしれませんが、
とても読みやすい文章、身近なテーマを描き続けた小説家。
今回はそんな川端康成の作品中、初心者向けのものを3冊ご紹介します。
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世界では三島由紀夫の師匠として注目を集めました。
愛すべき市井の人々 短編集『愛する人達』
ドラマ化された「母の初恋」ほか8編を収録した短編集。
昭和15年から『婦人公論』で連載された短編を集めたものです。
連載誌が女性向けとあって、「愛」がテーマの作品が大多数。
掲載誌がなにであれ手を抜かない川端康成らしい小説がつまっています。
収録されている9作品の題名とあらすじは以下の通り。
「母の初恋」 母親の初恋の人に育てられた娘 雪子の心中は?
「女の夢」非の打ち所がない令嬢が結婚しなかった理由。彼女に失恋し自殺した男?真相は?
「ほくろの手紙」ほくろをさわる癖があった女性の、別れる夫に書いた不思議な手紙。
「夜のさいころ」下町の踊子たちのワンシーン。化粧品に関する部分が生々しい。
「燕の童女」若い新婚夫婦が旅行中に出会った西洋人の女の子の話。
「夫唱婦和」亭主関白な牧山とその妻 延子。夫に対して初めて持った秘密の話。
「子供一人」妊娠した妻の変貌を、夫からの視点で描いた小説。
「ゆくひと」知り合いの女性が結婚する―。少年の淡いあこがれやかなしさを描く。
「年の暮」戯曲家とその愛読者の交流と別れ。
日常生活の小さな断片を描いた作品集。
この、切り取り方が面白いです。
白眉は「子供一人」。
苦難を乗り越えて結ばれた若い男女。
少女が妊娠したことから結婚を許されたのですが、つわりがひどく生命の危機にさらされることに。
一命をとりとめると一転、健康になったのですが性格が変わってしまい…。
女性の妊娠を描いた小説はたくさんありますが、このリアリティがすばらしい。
妊娠初期から出産まで、目まぐるしく変化する女性の精神と肉体。
それを男性の目線で描き出しています。
新妻 芳子の様子が目に見えるようです。
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可憐な優等生だった芳子が、ふてぶてしくなっていく様子がリアル!
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ラストにひとひねりあるところがおもしろいよね。
『掌の小説』星粒のようなショートショート
「たなごころのしょうせつ」または「てのひらのしょうせつ」と読みます。
漢字の読みとしてはどちらも正しいです。
2022年に出版された『少年』の中では「てのひら」とふりがながされていました。
生前の川端康成が自作「伊豆の踊子」を朗読した際には「掌」を「たなごころ」と読んでいたのですが。
作品集のタイトルとしては「てのひら」がふさわしいと思ったのかもしれませんね。
川端康成が20代のころから書き溜めた3ページほどの短編小説を集めたものです。
初期の作品は『感情装飾』という短編集に収録されていました。
その後、増えてきた短編とまとめて再集録。
最後には122編にまでふくれあがりました。
中には川端康成の中・長編小説の習作と思われるものから、独立した作品まで。
写実的なもの、幻想的なもの、シュールなものなどさまざまです。
中でも印象的なのが「心中」。
家出した夫から時々送られてくる不思議な手紙。
「子供に毬(まり)をつかせるな」「子供に靴をはかせるな」「子供に茶碗を使わせるな」
どれも、夫の耳には聞こえ、夫の心臓に影響を与えるらしい。
妻は遠く離れた夫の手紙に従うのですが、娘が反抗したころから、
ストーリーが大きく動き出します。
今の感覚ですと、
「出て行ったのなら文句言うな!」 で終了ですが
この家庭の何とも言えない愛憎が数ページの中に凝縮されていて怖いほどです。
眠れない夜に、気になったタイトルから読んで楽しめるのでおすすめです。
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日本では川端康成は抒情的な作家だと思われていますよね。
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実はシュールな作品が多いよね。
『美しさと哀しみと』 連城三紀彦おすすめの一冊
推理小説家の連城三紀彦が好きな小説ベスト10(講談社『女王』単行本に収録)のラストに挙げていたのがこちら。
川端康成『美しさと哀しみと』です。
そのベスト10にはモラヴィア、デュラス、サガン、大岡正平、井上靖などそうそうたる顔ぶれが並んでいました。
川端康成の作品を選ぶのに、『雪国』、『伊豆の踊子』、『古都』ではなく『美しさと哀しみと』というところがいかにも連城三紀彦らしいです。
作家の大木年雄、日本画家の上野音子、その女弟子 早見けい子の織り成す三角関係と悲劇を描いた作品です。
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まるでフランス映画のような男女の緊張関係。
『美しさと哀しみと』は映画化されています。
1965年 篠田正浩監督。
音子役は八千草薫、けい子役は川端康成と親交があった加賀まりこ。
けい子を演じた若き日の加賀まりこが非常に美しいです。
きれいなだけでなくコケティッシュな魅力があって「小悪魔」っぽいところが役柄にあっています。
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川端康成の存命中に作られた映画ですね。
その後、フランスでも映画がつくられています。
【あらすじ】
小説家の大木年雄は妻子があるにもかかわらず、10代の少女 上野音子と交際。
妊娠させてしまいます。
大木を愛していた音子は出産を希望しますが、
結局、子供は死産。
大木は家族の元へ帰ります。
純粋な少女であった音子には深い傷が残りました。
大木は音子との関係を描いた私小説を発表。
ベストセラーになってしまいます。
時が流れ、音子は独身のまま。
日本画家として名を知られた存在になっています。
たまに大木は音子に連絡をよこし、会うことも…。
師匠を敬愛する弟子 けい子は大木にある種の興味を持って近づきます。
不倫、同性愛、復讐―。
人間関係の織り成す糸が絡み合い、思いがけない展開に―。
大木の妻 文子の苦悩と嫉妬、音子とけい子の関係性、複雑な糸が大木を中心に張り巡らされます。
人間のこころの不思議さ、不気味さを描いた小説です。
手に取りやすい文庫本で出ていますので、ぜひご一読ください。
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とても読みやすい作品です。
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『美しさと哀しみと』はフランス語版が出ています。複雑な男女関係が好きなお国柄が表れていますね。
ま と め
初心者におすすめする川端康成の作品は
●『愛する人達』
●『掌の小説』
●『美しさと哀しみと』
川端康成と言うと日本では『伊豆の踊子』『雪国』『古都』などが有名。
なんども映像化されています。
けれども、世界では『眠れる美女』などがラテンアメリカ作家に影響を与えているというのは面白いですね。
お国柄によって読まれているものが違う―。
こういうことを知るのも読書の醍醐味です。
初心者向けの本を読み終えたら、異色作にも手を伸ばしてください。
『みずうみ』
美しい女性を見ると後をつけたくなる男 桃井銀平。
高校教師。
彼の執着心は対象を選ばず、教え子である玉木久子を家まで尾行する。
久子は変わった少女で、銀平と恋愛関係になる。
久子との関係が学校にばれ、職を解かれてからも銀平の悪癖は治らない。
ある夜、妙齢の美女をつけているとき相手に気づかれハンドバッグを投げつけられる。
通報されるかもしれない―。
そんな不安から軽井沢に逃れ、過去へと意識が流れていく…。
父親の不審死、自分の肉体へのコンプレックス、美しかった母親の思い出、近しい関係であった女たち。
奇妙なストーリーながら、登場する女性たち 宮子、久子、やよい、町枝が印象的。
女性の腕を文字通り借りてくる『片腕』(『眠れる美女』新潮文庫版に収録)
男女の奇妙な関係とその結末を描いた『死体紹介人』。
川端康成の実体験を題材に、少年同士の愛情を描いた『少年』。
問題作、不思議な読後感を残す作品がたくさんあります。
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管理人は「box and cox」という言葉を「死体紹介人」で知りました。
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ひとつの部屋を、午前と午後でふたりの人間が使うっておもしろい発想ですよね。海外の喜劇がもとになっているんだけど。
美しさだけでない、不気味な人間心理を描けるところがノーベル賞作家の証。
『みずうみ』の主人公や『舞姫』の矢木のような人物を描いても下品にならないところに驚嘆します。
また、川端康成ほどの文豪となると他の作家の作品にも時々出てきます。
川端康成と言うと太宰治との芥川賞をめぐるやりとりが有名。
芥川龍之介に憧れ、どうしても第一回芥川賞が欲しかった若き日の太宰治。
選考委員のひとりで、太宰を高く評価していた佐藤春夫に長い手紙を書いたのは有名。
結果は落選。選考委員のひとりで太宰の受賞に反対したのが川端康成。
太宰は選評を読んだ後、川端康成を逆恨み。抗議の随筆を「文学通信」に寄稿する。
その文章は今でも青空文庫で読める。タイトル『川端康成へ』
あのエピソードだけを知っていると川端康成に「厳しい」イメージを持つ人がいるかもしれません。
ですが、優しいお人柄を感じさせる逸話が多いです。
弟子である三島由紀夫関連の書籍には当然、出てきますね。
また、一見あまり関係のない本でもみかけることはあります。
瀬戸内寂聴の岡本かの子評伝、工藤美代子の『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』など。
出番が少なくとも強烈な印象を残しています。
工藤美代子の本には主に川端康成夫人 秀子さんが登場しますね。
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秀子夫人は不思議な力をお持ちだったようですね。
興味のある方はご一読下さい。
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唐沢俊一の本にも登場したことがあります。岡本かの子を描いた作品だったので瀬戸内寂聴の本が元ネタかも。
【川端康成】かわばた やすなり
(1899〜1972)
小説家。大阪市生まれ。東大卒。
横光利一らと「文芸時代」を創刊、新感覚派の代表作家として活躍。以後、日本的美意識を追求し続け、1968年(昭和43)ノーベル文学賞を受賞。自殺。作品は「伊豆の踊子」「雪国」「千羽鶴」「山の音」「みづうみ」など。
出典『大辞林』
【川端康成作品 本の選び方】
管理人ちょろは紙の本・電子書籍どちらも好きです。
現在はなるべく本棚を減らしたいので電子書籍で揃えたい気持ちが強くなっています。
ですが、川端康成に関しては紙の本がおすすめです。
そろえるのであれば新潮文庫。
藍色の背表紙、杉のイラストが美しいです。
電子書籍は著作権の関係で解説が省略されていることが多いです。
川端康成『伊豆の踊子』(新潮文庫版)は竹西寛子の解説と三島由紀夫の文章が載っていてとても豪華。
一読の価値があります。
本は収録作品は当然として、解説文の著者も大切。
これがkindle版ではすべてカットされているんです。
川端康成に関しては紙の本を推しますね。
一部、『東京の人』など電子書籍か古本でしか読めない作品があります。
![ちょろ](https://www.bull-headed-shrike-gecko.com/wp-content/uploads/2022/08/IMG_2086-1-300x300.jpg)
解説が不要な作品も存在しますが、川端康成の文庫本は解説が良質なんですよね。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
参考にしていただけるとうれしいです。
よろしかったらこちらもどうぞ。
川端康成と同じノーベル文学賞をとった作家たち
日本では焼酎の名前にもなったガルシア・マルケスの作品。
読みやすい短編をご紹介しています。